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「全く。何で行く先々であいつと出会すんだよ」
今度はもう少し離れた場所に行こう。
流石に今度鉢合わせたらこれはもう神の悪戯だ。
次に顔を合わせたらどんな反応をすればいいのか分からないし喧嘩中に余計な感情を抱きたくない。
ゆっくりできる場所を求めて僕は歩みを進めた。
目先を変えて大通りを抜け、人通りの少ない路地に入った。そこには小さいながらもいろんな店があった。
イタリアンのお店とか雑貨屋とか古着屋とか、色々。だが雰囲気のあるお店で一人では全く入る気がしなかった。
結局細い路地を通り抜け、出た先には駅があった。
今朝デートの待ち合わせに使った駅の一つとなりにある駅で、僕はそれを見た瞬間に気持ちが萎んでいく。
「もういいや。帰ろう」
定期券の範囲外だが百五十円くらいいいや。デートで使うはずだったお金がまだ少し残ってるし。
思い立って、僕は券売機へと向かった。
向かった。その先に、
「三回目だよ」
ここまで来たら呆れるしかない。脱力気味に僕はごちる。
券売機の前で切符を買う少女。奈緒がいた。
「う、」
奈緒も偶然続きで動揺を隠せずたじろぐ。だが、喧嘩中という事がちゃんと頭の中に入っているのか、脊髄反射の如き速さで何も言わず僕から逃げようとする。
「待ってよ!」
「はぅっ!」
僕から逃げようとする奈緒を追いかけすかさず腕を取ると可愛い悲鳴が漏れた。
手を取っても振り返らない彼女に、僕は諦めのこもった声で言う。
「もういいでしょ、もう」
お互いに背き離れてあちこちと歩き回るのは止めにしよう。
僕の気持ちが伝わったのか、掴んだ腕から奈緒の強張った身体が弛緩するのが伝わった。
そしてようやく振り返る。
「さっきはごめん」
俯きながら奈緒はそして言うのだった。
僕は首を横に振る。
「僕の方こそね。目的が見失ってたよ。奈緒を楽しませる為に考えたデートプランなのにそれに縛られてその通りに動かなくちゃって思ってさ」
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