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県大会の帰りのバスの中、僕はぼんやりと窓の外を眺めていた。
吹奏楽部は、中学校内でもわりと大きく、僕ら一年生は舞台に上がれなかった。
それでも、初めての長旅で、みんなくたびれたみたい。
舞台でできなかった合奏を、今、寝息で奏でている。
窓の外は、漆みたいに真っ黒で、何も見えない。
時折、峠道をすれ違う対向車以外に、道を照らす光がないんだ。
寝息の合奏が聴こえるマイクロバスの中で、ひとり眠れずに、つまらない景色を見ているのには、訳がある。
それは、今日いちばんの活躍を見せた松本祐実が隣で眠っているせいだ。
一年生でたった一人、舞台に上がった女子。
かなりのプレッシャーだったんじゃないかな。
疲れて、少し紅くなった頬が、直視を許さないほどに愛らしい。
マツモトさんは、僕にとって特別な存在なんだ。
スマートで、朗らかで、少し影のある、言わば東京の匂いを羽織った天使。
天使を直視したらイケナイでしょう?
だから、つまらない景色を眺めて、悶々としている。
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