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ふと、左肩に体温を感じる。
視線を窓から左側へと移すと、マツモトさんの腕が僕の肩に寄りかかっている。
─きっと、誰よりも疲れているんだろうな。
そう心で言いながら、また窓の外へと視線を戻そうと思った。
長くてつやつやした黒髪。
その隙間から覗く耳。
柔らかい曲線を描く桃色の頬。
閉じられた二重瞼から伸びるカールした睫毛。
何故だろう。暗がりの中なのに、その色ははっきりと僕の目に映っている。
視線を外そうと思っているのに、美しくて無防備な天使の寝顔が、イケナイ僕の視線をがっちりと掴んだまま放さない。
まじまじと、スケッチするみたいに眺めながら、頭の片隅では、肩に浸透してくる天使の体温を、巧みに手繰り寄せている。
そうして集めたマツモトさんの欠片から、エンジンの音や、みんなの寝息、運転席からの仄かな灯りや、クーラーから吹き寄せる冷風を、丁寧に分離していく。
僕は、世界でいちばんエッチなんだと思う。
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