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気を紛らすために、頭の中で自由曲の演奏をしてみる。
アルフレッド・リードのアルメニアン・ダンスpart IIだ。
お気に入りの7拍子と5拍子が入り乱れるリズムを右手の指で刻む。
妖しく心に広がって行く世界。
暗闇の篝火。
篝火に向いた面だけがオレンジ色を照り返す。
僕は、そこで踊るジプシーに見とれている。
長い布を巻いただけの衣装から、ひらりと太股が露になる。
3拍、2拍ごとに訪れる強拍に合わせ、二の腕と胸が揺れている。
曲調はエキゾチックに高ぶり、女性の顔が少しだけこちらを向くと、ほっそりした鼻筋を挟んで、うっすら開いた瞼からこぼれる視線が、僕とぶつかる。
どくん。
その視線は、僕を誘う様に、トリッキーなリズムで左右する。
時に哀しげに、時に優しく。
振り返るごと、ジプシーの顔は篝火に熱を帯びていくのがわかる。
どくん。
ジプシーが僕の傍まで歩み寄って、温かな手を肘に絡める。
どくん。
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