夏の夜の夢

5/10
前へ
/10ページ
次へ
 僕の腕は、上気した腕にしっかりと絡め捕られていた。 かすかに尖った顎が肩に刺さり、熱い吐息が開襟シャツの胸元に吹きかけられる。   ─マツモトさん、それはマズいよ。    ミジンコみたいな理性と、エッチな狼が、峠道に揺れるマイクロバスの中で対峙している。 どうみても、ミジンコに勝ち目はない。 左腕から、包み込むみたいな膨らみを挟んで、肋骨の凹凸が感じて取れる。    空想のジプシーを振り切って、僕は右手でマツモトさんを、とんとんと叩く。   頑張れ、ミジンコ。   「マツモトさん、あの…」   なんて言って起こしたら良いんだろう。 胸が当たってるだなんて、とても言えない。 もしもそんなこと言ったら、イヤラシイ妄想をしていることを見透かされてしまうじゃないか。   「ねえ、起きて。マツモトさん」   それが、精一杯だ。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加