夏の夜の夢

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 大粒の涙は、僕の肩にしみを作る。 秘密主義の僕の中に、土足で踏み入って来る。    出す手も浮かばない、女のコの不思議が始まった。 右手で肩を撫でても、ほどいた左腕で抱き寄せても、ユミちんの横隔膜は痙攣を繰り返すばかり。 肩と胸のしみは広がるばかり。 それなのに、僕はユミちんの涙の意味を感じ取れない。   「味方失格かな…」    シャツにしがみつくユミちんの髪を、僕は力なく撫でている。   どうしてそんなに見えるの? 僕の奥まで見透かすの?   僕には見えないよ。 こんなに近くて、こんなにくっついているのに。 なんにも、見えないよ。      僕も泣いた。 空みたいに真っ黒な髪に鼻面をあてて、理由もなく泣いた。 声をあげず、ひきつる横隔膜が空気を吸い込む音だけを放ちながら。 ふたりして、泣いた。      そしたら、漆黒の夏空に浮かんだ月みたいに、僕らは一コの真ん丸になって、バスの外へ切り離された。 皆から離れることで、ユミちんとひとつになれたんだ。   もう、エンジンも寝息も聞こえない。 ふたりの痙攣と心音が完全に重なって、まるで一人になったみたい。   僕らは、泣きながら眠って、 泣きながら同じ夢を見たんだ。
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