1722人が本棚に入れています
本棚に追加
「メスの匂いがする。あーあ、かなりショック。」
”メスの匂い”って、蜜の匂い?
他の女の匂いは知らないけど、甘いバターのようなあの匂いがちょっと顔を近づけただけで匂うんだろうか。
「何よ、メスの匂いって。」
わざとすっ呆けてみる。
「男を興奮させる匂い。」
「汗臭い? やだ、シャワー浴びて来ようかな。」
洗濯物を持って、そのまま部屋を出ようとしたのは、何となくこのまま雄大といることに危険を感じたから。
あの雄大が。弟分のかわいい雄大が男に見えちゃったから。
「美弥姉。」
雄大が掴んだのは私の右足の足首。
「僕、彼女と別れたよ。」
「そうなんだ。ちょっと放してよ。」
「”そうなんだ”じゃなくて、”どうして?”って聞いてよ。」
あー、面倒臭い。
「”どうして?”」
思いっきり棒読みで聞いてやった。
「美弥姉と付き合うため。そんなフラフラしてる男なんて振って、僕にしなよ。」
「フラフラなんて人聞きの悪い。別に女癖が悪いんじゃなくて、ただの転勤族ってだけだよ。」
***
実は亘のアパートに行くのは結構ドキドキだった。
他の女の痕跡があったら、どうしようと思って。
会社から直接ホテルに来た亘は、私に見られたらマズい物を隠す時間はなかったはずだ。
ホテルをチェックアウトした後、亘の家に行きたいと言い出したのは私。
もっと愛し合いたいと思ったからで他意はなかった。
なのに、亘が一瞬、考える素振りをしたので、『え? まさか?』なんて急にドキドキしてきた。
「ここんところ留守がちで掃除してないし、布団だってずっと干してないんだ。」
「じゃあ、お布団干して、掃除してあげる。」
無邪気な顔でニッコリと微笑んでやった。どうだ。断れまい。
「あー、いや。いいよ、掃除は。」
……怪しい。
アパートに着くとカーテンを閉め切った亘の部屋は薄暗くて、よく見えないうえに靴を脱ぐ前に胸をまさぐられた。
……超、怪しい。このままベッドに押し倒して私を溺れさせて、周りを見せない気だ。
「なんか空気が淀んでて息苦しいね。窓、ちょっと開けよう?」
亘を押しのけてカーテンを開けたら、目の前の光景に絶句した。
なんじゃ、こりゃあ?!
最初のコメントを投稿しよう!