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「聞いた? リストラの話。」
出社すると望月さんに小声で聞かれた。
「え? リストラ、ですか?」
寝耳に水だった。
事務の中には経理の仕事も含まれているから、うちの会社が厳しい状況だというのはわかってはいた。
でも、経費削減とか節電・節水とか。そんなことで、何とかやっていくしかないんだろうと思っていた。
リストラってことは、やっぱり私だろうな。
真っ先に思ったのはそれだった。
印刷の人たちは削れない。
営業だってそうだ。
だとしたら、事務を減らすしかない。
私か望月さんか。
『遠藤の方が若いから次の仕事を見つけやすいし、独身だから再就職するまで何とかなるだろう。
娘を抱えた望月さんを路頭に迷わせるわけにはいかない。』
きっと社長はそう考えるだろう。
いや、社長だけじゃない。私だってそう思う。
「悪いね、遠藤さん。」
案の定、終業間際に呼ばれた応接室で、専務から退職を勧められた。
嫌だとごねることも出来たのかもしれないけど、そんなことをしても望月さんやみんなとの関係が悪くなるだけだ。
そこまでしてしがみつきたい会社でもなかった。
有給を消化して、実際に出社するのはあと2週間。
あれよあれよという間に、話が進んでいた。
「遠藤!」
タイムカードを押そうとしたら、長倉さんが血相を変えて走って来た。
「辞めるって本当か?」
「本当みたいです。まだ全然実感が湧かないけど。」
きっと私、情けない顔をしている。
だって、今朝、電車に乗った時は仕事を失うなんて思いもしなかったんだから。
「飲みに行くぞ!」
強引に会社近くの居酒屋に引っ張って行かれた。
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