1682人が本棚に入れています
本棚に追加
/222ページ
「おはよう。」
タイムカードの前で長倉さんに声をかけられた。
「おはようございます。」
昨日の告白を思い出すと、何だか長倉さんの顔をまともに見られない。恥ずかしくて。
「俺のこと、意識してる?」
笑いを含んだ声でそんなことを言われたら、強がりな性格が出てしまう。
「そんなことないです!」
きっぱりと言い切って、長倉さんを睨んだ。
何? その目。
てっきりいつもみたいにからかった顔をしているんだと思ったのに、長倉さんは優しい目で微笑んでいた。
愛しいものを見るようなとびきり優しい目。
私、亘にこんな目で見られたこと、あったっけ?
胸がキュッと痛んだのは、長倉さんにドキッとしたせいなのか、亘への切ない想いのせいなのか。
望月さんは何度もごめんねとありがとうを繰り返した。
「私の方が独り身で身軽なんだから当然ですよ。気にしないでください。
それより、私が辞めたら望月さんの仕事が増えちゃいますね。」
2人分の仕事が望月さんの肩にかかってくる。
そう心配したのに、望月さんは意外なことを言った。
「それがね、社長の奥さんが事務を一緒にやってくれるんだって。」
はぁとため息を吐いた望月さんの気持ちが痛いほどわかる。
社長の奥さんは副社長という肩書があるものの、会社には仕事始めの時にしか顔を出さない人だった。
事務仕事をちゃんと出来るのかさえ怪しい。
そんな人と一緒に仕事をしていくことを考えたら、辞めることにして正解だったのかもしれないと思えてきた。
最初のコメントを投稿しよう!