1722人が本棚に入れています
本棚に追加
「ごめん。もう切るよ。なんか腹痛くて。」
辛そうな声に亘の苦しそうな顔が思い浮かんだ。
「大丈夫? 何かあったら夜中でも電話して。」
「わかった。おやすみ。」
「おやすみ。お大事に。」
電話を切っても、ザワザワと胸が騒いで落ち着かない。
こういう時って、遠距離恋愛は困る。
どんなに心配でも駆けつけられない。
付き合って丸6年の亘は、就職してから大体1年半ごとに転勤を繰り返している。今、住んでいるのは仙台。
その前が岡山だったから、東日本に戻ってきてくれただけマシというものか。
それでも、東京から夜中においそれと行ける距離ではない。
私にだって仕事があるし。
毎朝、電話で亘を起こしてあげるのが私の日課だ。
この6年間、1日も欠かさずに続けている。
『休みの日はモーニングコールなしで、ゆっくり昼まで寝ていたいんじゃないの?』と聞いたら、
「それより美弥の声で目覚めたい。」
と言われてしまった。
あの甘い笑顔を思い出して、ときめいたのは言うまでもない。
だから、私も休みの日だからと言って、ぐうたら寝ていられない。
どんなに眠くても亘を起こすという使命がある。
「おはよう。○時だよ。起きて。」
ありったけの愛情を込めて電話の向こうの亘に声をかける。
「ん。おはよう。」
亘の寝ぼけた声はかわいい。
その声を聞けば、私も一日頑張れると思うのだ。
トゥルルルル、トゥルルルル。
『おかけになった電話は~』
さっきから何度亘に電話しても、聞こえてくるのはドコ○のお姉さんの自動音声。
こんなことは初めてだ。
どうしよう。どうしたんだろう?
電波の届かない場所にいるはずはないから、電源を切っているのかバッテリー切れか。
用意周到な亘がバッテリー切れなんて普段では考えられない。
でも、昨夜の様子だとお腹が痛くて充電し忘れたとか?
亘はイエ電を持っていないから、携帯が繋がらないと連絡しようがない。
仕方なく『電話したけど繋がらなかったから起こせなかったよ。大丈夫?』とだけメールを送ってから出勤した。
最初のコメントを投稿しよう!