無事ならいい

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「ごめん。もう切るよ。なんか腹痛くて。」 辛そうな声に(わたる)の苦しそうな顔が思い浮かんだ。 「大丈夫? 何かあったら夜中でも電話して。」 「わかった。おやすみ。」 「おやすみ。お大事に。」 電話を切っても、ザワザワと胸が騒いで落ち着かない。 こういう時って、遠距離恋愛は困る。 どんなに心配でも駆けつけられない。 付き合って丸6年の亘は、就職してから大体1年半ごとに転勤を繰り返している。今、住んでいるのは仙台。 その前が岡山だったから、東日本に戻ってきてくれただけマシというものか。 それでも、東京から夜中においそれと行ける距離ではない。 私にだって仕事があるし。 毎朝、電話で亘を起こしてあげるのが私の日課だ。 この6年間、1日も欠かさずに続けている。 『休みの日はモーニングコールなしで、ゆっくり昼まで寝ていたいんじゃないの?』と聞いたら、 「それより美弥(みや)の声で目覚めたい。」 と言われてしまった。 あの甘い笑顔を思い出して、ときめいたのは言うまでもない。 だから、私も休みの日だからと言って、ぐうたら寝ていられない。 どんなに眠くても亘を起こすという使命がある。 「おはよう。○時だよ。起きて。」 ありったけの愛情を込めて電話の向こうの亘に声をかける。 「ん。おはよう。」 亘の寝ぼけた声はかわいい。 その声を聞けば、私も一日頑張れると思うのだ。 トゥルルルル、トゥルルルル。 『おかけになった電話は~』 さっきから何度亘に電話しても、聞こえてくるのはドコ○のお姉さんの自動音声。 こんなことは初めてだ。 どうしよう。どうしたんだろう? 電波の届かない場所にいるはずはないから、電源を切っているのかバッテリー切れか。 用意周到な亘がバッテリー切れなんて普段では考えられない。 でも、昨夜の様子だとお腹が痛くて充電し忘れたとか? 亘はイエ電を持っていないから、携帯が繋がらないと連絡しようがない。 仕方なく『電話したけど繋がらなかったから起こせなかったよ。大丈夫?』とだけメールを送ってから出勤した。
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