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「どうかした?」
カップ麺を食べ終わった望月さんが聞いてくるほど、私の様子はおかしかったのだろう。
お弁当を広げながらも食欲がなくて、一向に進まない箸を置いては携帯を意味もなくいじっているんだから、何かあったと思うのが普通か。
「実は……彼氏が今朝から音信不通なんです。」
「え?!」
素っ頓狂な声を上げたのは正面に座る望月さんではなく、休憩室に入ってきた長倉さんだった。
「遠藤って、彼氏いたんだ?!」
私の右隣に座った長倉さんは、私の顔を覗き込むように聞いてきた。
その顔が近くて、ちょっと身構えてしまう。
「もう長いよね。入社した時から同じ人でしょ? 今、遠距離恋愛中だから、遠藤さんはフリーみたいなもんよ。」
私の代わりに答えた望月さんの言葉に顔が強張った。
『遠距離恋愛だから、フリーみたいなもの』だなんて。
そんな風に考えたことは1度もなかったけど、そう考える人もいるんだ。
「ふーん。音信不通って?」
コンビニ弁当を開きながら長倉さんが尋ねたので、夕べからのことを2人に話した。
「こういう時、そばにいられないって辛いです。心配で。」
自分の気持ちまで曝け出したら、少し楽になった。
「お腹痛くて朝イチで病院に行ったんだけど、携帯を家に置き忘れたとかね。」
望月さんが私の考えつかなかったことを言ってくれたので、大きく頷いた。
「そうかも! 病院が混んでてなかなか帰れなくて電話できないのかも。」
「痛み止めの点滴を打ってもらってるとかね。大丈夫よ、きっと。」
望月さんは32歳のバツイチで、8歳の女の子の母親だ。
そのせいか私と5歳しか違わないのに、お姉さんというよりはお母さんという感じがする。
仕事上でも頼れる先輩だ。
「案外、浮気してたりしてな。」
少しホッとしたところに、長倉さんがいきなり爆弾を投下した。
「え。」
「本当は今日は仕事じゃなくて休みの日で、夕べから浮気相手とイチャイチャしてて。
おまえからの電話が来るのが嫌で、女が勝手に電源を落としたとか。
一晩中運動したから、今頃爆睡してるだけかもよ?」
「あー、ありうるね。」
2人の大真面目な顔を見たら、冗談で言っているのではないとわかった。
「そんなこと……」
『ない』とは断言できない。
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