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「僕とだったら、笠井で一生生きていけるよ。なんだったら、おばさんも涼介も一緒に。」
「この家で?」
「うん。涼介の部屋が隣ってのは、ちょっと申し訳ないけど。」
それって、暗に私の啼き声が弟に聞こえちゃうって言ってる?
「何言ってるんだか。バカなこと言ってないで、そろそろ帰りなさいよ。」
そう言いながら、キャリーの前に座り込んでいる雄大に手を差し出した。
結婚して、この家で母と弟と4人で暮らす。
それは、夢のように幸せな未来に思えた。
相手が雄大じゃなくて亘だったら。
「わっ、きゃあ!」
グッと引っ張って雄大を立たせるつもりだったのに、なんでこうなったんだろう。
逆に引っ張られて、雄大を床に押し倒していた。
キャリーに足がぶつかって痛かったし!
「美弥姉。好きだ。もうずっとずっと好きだったんだ。」
切ない声で私を抱きしめた雄大の顔が近いと思った時には、もう唇が重なっていた。
亘のブチュウとは全然違うキス。
そっと触れて、離れたと思ったら、味わうように端から端まで重なった。
「やだ! やだ、やだ、やだ!」
雄大の拘束を振りほどいて、立ち上がってドアまで逃げた。
「信じられない。なんで」
息がうまくできなくて、言葉が途切れた。
私、浮気しちゃったの? 違う違う! これは事故だもん。
「他の男になんか渡さない。美弥姉は僕と結婚するんだよ。」
立ち上がった雄大に恐怖しか感じなくて、私は慌てて階段を下りた。
「涼介! 涼介!」
リビングでまだ寝ていた弟にしがみついた。
「あれ? 姉ちゃん。お帰り。」
まだ酔っているようなトロンとした目でのんきにそんなことを言う。
「じゃあ、帰るわ。」
階段を下りてきた雄大が何事もなかったかのように涼介に手を振った。
起き上がった涼介の表情が見る見る引き締まっていく。
「姉ちゃん、なんかされた?」
勘のいい涼介じゃなくても気づいただろう。
気の強い私が弟にしがみついて震えてるんだから。
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