1721人が本棚に入れています
本棚に追加
「それで、亘さんとはどうなったの?」
母の言葉に、そうそう大事な報告をしなくちゃと思い出した。
「うん。プロポーズされた。とりあえず、仙台で同棲始めて、結婚式の準備を進めようって。」
「そう。良かったじゃない。」
そう言う割には、大人しい反応だ。母にしては。
「笠井に戻って欲しかった?」
「そうねぇ。笠井に帰ってきて、雄大くんと結婚してくれたらって、ちょっと思ってたけど。
だって、あの子、本当にあんたのこと好きだったから。」
どうやら雄大の一途な恋心に気づいていなかったのは、私だけのようだ。
「でも、私が結婚したいのは亘だよ。」
「仙台に行く前に挨拶に来るのかしら?」
「うん。来週、来たいって言ってた。お母さんと涼介の仕事の都合、後で教えて。」
例えば、これが自分のことじゃなくて、友達の話だったら。
あるいは、マンガや小説の中の出来事だったら。
私も絶対、雄大推しだっただろう。
子どもの頃から親友の姉をずっと思っていて。
でも、小学生と高校生とか、中学生と大学生では住む世界が違いすぎて、相手にされないってわかっているから告白もできなくて。
そんなシチュエーションだけで、萌える。
それが大人になって、イケメンに成長した彼から告白されて、ちょっと強引にキスされたら。
会うたびに太っていく遠距離の彼氏との間で心が揺れるとか。
彼氏と結婚の約束をしたのに、一途な年下の男に絆されて、つい、とか?
うん。絶対、雄大にしろって言うわ。
でも、現実はそんなもんじゃない。
お風呂に浸かって、自分のお腹を見下ろした。
実家でのんびりしたツケが確実にお腹周りに来ている。
雄大だって、このお腹を見たら考え直すかも。
でも、亘は違う。
「一緒に暮らすようになったら、毎晩激しい運動するから2人とも痩せられるな、きっと。」
彼はニヤッと笑って、私の脇腹を摘まんだんだ。
亘なら太っても年取っても、私を愛し続けてくれる……はず。
最初のコメントを投稿しよう!