不意打ちの

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「それで、亘さんとはどうなったの?」 母の言葉に、そうそう大事な報告をしなくちゃと思い出した。 「うん。プロポーズされた。とりあえず、仙台で同棲始めて、結婚式の準備を進めようって。」 「そう。良かったじゃない。」 そう言う割には、大人しい反応だ。母にしては。 「笠井に戻って欲しかった?」 「そうねぇ。笠井に帰ってきて、雄大くんと結婚してくれたらって、ちょっと思ってたけど。 だって、あの子、本当にあんたのこと好きだったから。」 どうやら雄大の一途な恋心に気づいていなかったのは、私だけのようだ。 「でも、私が結婚したいのは亘だよ。」 「仙台に行く前に挨拶に来るのかしら?」 「うん。来週、来たいって言ってた。お母さんと涼介の仕事の都合、後で教えて。」 例えば、これが自分のことじゃなくて、友達の話だったら。 あるいは、マンガや小説の中の出来事だったら。 私も絶対、雄大推しだっただろう。 子どもの頃から親友の姉をずっと思っていて。 でも、小学生と高校生とか、中学生と大学生では住む世界が違いすぎて、相手にされないってわかっているから告白もできなくて。 そんなシチュエーションだけで、萌える。 それが大人になって、イケメンに成長した彼から告白されて、ちょっと強引にキスされたら。 会うたびに太っていく遠距離の彼氏との間で心が揺れるとか。 彼氏と結婚の約束をしたのに、一途な年下の男に絆されて、つい、とか? うん。絶対、雄大にしろって言うわ。 でも、現実はそんなもんじゃない。 お風呂に浸かって、自分のお腹を見下ろした。 実家でのんびりしたツケが確実にお腹周りに来ている。 雄大だって、このお腹を見たら考え直すかも。 でも、亘は違う。 「一緒に暮らすようになったら、毎晩激しい運動するから2人とも痩せられるな、きっと。」 彼はニヤッと笑って、私の脇腹を摘まんだんだ。 亘なら太っても年取っても、私を愛し続けてくれる……はず。
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