第2話

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「どうしよう…」 「どうした?」 声をかけられてはっとした。 一瞬、遼の存在を忘れてた…。 「何でもない!」 震える声で咄嗟に言えたのは、それだけだった。 動揺が顔に出てる気がして、慌てて俯いても、 誤魔化しきれなくて。 「…やっぱ、知り合いだった?」 心配そうに遼が私の様子を窺ってるのがわかる。 でも悪いけど、今は何も言いたくない。 声を出したら、一緒に何か溢れてきそうで、 ひたすら首をぶんぶん横に振った。 「姉弟だって言えばいいじゃん! オレ、言ってやろうか?」 遼が距離を少し詰めて座りなおす。 やめて。もう何も言わないで。 ギュッと強く拳を握って縮こまっていると、 頭の上に、遼の大きな掌がぽんと乗せられた。 「オレ、姉貴できてうれしーよ?」 優しく響いたその言葉に、 私はグッと唇を噛んだ。 ダメだ、落ちる…。 目じりに限界まで溜まった涙が、 零れ落ちそうなのが、自分でもわかった。 「ごめん、帰る!」 なんとかその二言を絞り出し、立ち上がると、 返事を待たずに、一気に駆け出した。 呼び止める声も一切無視して。 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。 私は心の中で呪文のように繰り返しながら走った。 あのまま一緒にいたら、 たぶんガマン出来なかった。 でも、初対面の遼の前で泣いちゃうのだけは、 どうしてもイヤだった。 そういえばあれ以来、 そのことについて話したことはない。 遼は私に、何も聞かなかった。
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