第1話

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「ふつうじゃ考えられないよ? よっぽどイヤなことあったんだ? あ!ひょっとしてマザコン?潔癖症? はやりのモラハラとか?」 「どれも違うけど。 …それ、言わなきゃダメかな?」 向かいの席から身を乗り出してくる栞の追及を、 無駄だと知りつつやんわりと断ってみる。 「当たり前でしょ?言わなきゃ、 私、瑞月のこと庇ってあげられないよ? 全女子社員あこがれの的を、 入社早々かっさらって行ったんだから、 相当恨み買ってると思って間違いないんだからね!」 せっかく小さくなっていた栞の声が、 興奮でまた大きくなっていく。 「だよね…」 がっくりとうなだれた頭の上から、 しょうがないなってため息が落ちてきた。 「今晩、家来る?」 「行く!」 即答で顔を上げると、デコピンが飛んでくる。 「ったく、調子いいんだから!」 「いったぁい」 自分でも単純だなと思うけど、栞の心遣いが素直に嬉しかった。 「ま、こんなとこでする話でもないし」 「ありがと、栞!」 「その代り、ここ、奢ってもらうからね!」 意地悪そうなその笑顔に、慌てて財布の中身を確認する。 ぎりぎりセーフ! 給料日前に急な出費は痛いんだけど、 そんなこと言っていられないくらい、 現状は逼迫していた。
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