第4話

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4年前、瑞月の出発前日、 遼は一人でお別れ会の準備をしていた。 はさみ片手に折り紙で作った輪かざりや、 キラキラしたモール、花に埋もれている遼は、 どっかの保母さんみたいになっている。 そこへ、大急ぎで走って来た彰人が、 ノックもせずに遼の部屋を開けて叫んだ。 「おい、遼っ!ウチの親父が、 さっき、駅でみぃ姉見たって! ホントに出発、明日なんだよな?」 遼は手元から顔も上げずに答える。 「何言ってんだよ? みぃ姉ならさっき友達に会ってくるって」 「さっきっていつ?」 「え、さあ?昼めしの後か? 親父さんの見間違いじゃねぇの?」 「オレだってそう思ったけど! うちの親父、 目だけはめちゃくちゃいいんだって! その親父が『間違いない』って言うんだ!」 遼はようやく手を止めて、 少し考え込んだと思ったら、 徐に立ち上がり、部屋を出て行った。 瑞月の部屋の前に立ち、 ドアノブに手をかけいきなり開ける。 部屋は整頓され、誰もいなかった。 「…ない、みぃ姉の荷物」 遼は少しよろめいて、そのまま壁に凭れた。 「やっぱり」 「なんでそんなウソ?意味わかんねーよ」 片手で顔を覆い、ははっと自嘲気味に笑う遼。 「見送られるの照れくさかったのかね」 彰人のフォローも、耳に入らない。 「だからって!黙って行くとか、あんまりだろ」 一瞬、声を荒げた遼は、 そのまま黙ってうつむいてしまう。 彰人はかける言葉が見つからなかった。 あれからだ、 遼がちょっとずつ、 他人と距離とるようになったの。 本人ですら気づいてないかもだけど。
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