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「私だって、主任のこと好きだよ?
でも、まだ入社して半年しかたってないのに、
仕事辞めるなんてイヤなんだもん!
ずっとやりたかった仕事だし、厳しい研修だって、
みんなで乗り越えて、これから色々任せてもらえるって時に、
やめるとかありえないもん!」
主任に言えなかった分、お酒の力を借りて、栞に反論した。
「んー、まあ、私が瑞月でも、辞めたくないかな」
「でしょ~?」
「辞めなくてもいいんじゃない?共働きでも!」
「それがダメなの」
「なんで?」
「主任、香港へ転勤になるんだって」
「いつ?」
「秋の異動で」
「だからかぁ、最近、工藤主任、出張ばっかだもんね!」
栞は経理課だから、そういうのにやたら詳しい。
どこの会社とどういう仕事が始まりそうとか、
各部署から上がって来る領収書を頭の中で結びつけて、
色々想像するのが楽しいらしい。
「どれくらい行くんだろ?」
「最低3年」
「3年かぁ…、遠距離するにはツライねぇ」
「うん…」
「んで、主任は連れて行こうと思ったわけか」
「みたい」
「で、断られたと」
「仕方ないでしょ!」
「ちょっとかわいそう、工藤主任。
まさか断られると思ってなかったんじゃない?」
「うぅっ、それはそうかもだけど…」
それを言われると、何も言えなかった。
実際、あの時の主任、すっごく傷ついた顔をしていたし。
結局、最後まで納得してくれなかったもんな。
「あの、誰にも言わないでね」
「わかってるよ」
「聞いてくれてありがとね~、栞ぃ~」
抱き着いた私の頭を、ぽんぽんとあやすように撫でる栞。
相談できる相手がいてよかった。
久しぶりに気持ちよく酔っぱらった頭の片隅で、
そんなことを考えていた。
月曜の朝には、会社中の女子社員を敵に回すことになるとは、
夢にも思わずに。
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