第1話

7/10
前へ
/106ページ
次へ
「私だって、主任のこと好きだよ? でも、まだ入社して半年しかたってないのに、 仕事辞めるなんてイヤなんだもん! ずっとやりたかった仕事だし、厳しい研修だって、 みんなで乗り越えて、これから色々任せてもらえるって時に、 やめるとかありえないもん!」 主任に言えなかった分、お酒の力を借りて、栞に反論した。 「んー、まあ、私が瑞月でも、辞めたくないかな」 「でしょ~?」 「辞めなくてもいいんじゃない?共働きでも!」 「それがダメなの」 「なんで?」 「主任、香港へ転勤になるんだって」 「いつ?」 「秋の異動で」 「だからかぁ、最近、工藤主任、出張ばっかだもんね!」 栞は経理課だから、そういうのにやたら詳しい。 どこの会社とどういう仕事が始まりそうとか、 各部署から上がって来る領収書を頭の中で結びつけて、 色々想像するのが楽しいらしい。 「どれくらい行くんだろ?」 「最低3年」 「3年かぁ…、遠距離するにはツライねぇ」 「うん…」 「んで、主任は連れて行こうと思ったわけか」 「みたい」 「で、断られたと」 「仕方ないでしょ!」 「ちょっとかわいそう、工藤主任。 まさか断られると思ってなかったんじゃない?」 「うぅっ、それはそうかもだけど…」 それを言われると、何も言えなかった。 実際、あの時の主任、すっごく傷ついた顔をしていたし。 結局、最後まで納得してくれなかったもんな。 「あの、誰にも言わないでね」 「わかってるよ」 「聞いてくれてありがとね~、栞ぃ~」 抱き着いた私の頭を、ぽんぽんとあやすように撫でる栞。 相談できる相手がいてよかった。 久しぶりに気持ちよく酔っぱらった頭の片隅で、 そんなことを考えていた。 月曜の朝には、会社中の女子社員を敵に回すことになるとは、 夢にも思わずに。
/106ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47人が本棚に入れています
本棚に追加