第1話

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主任と付き合うようになってから、 私は会社の食堂やエレベーターを使わなくなった。 毎日お弁当を持参して、 出退社時は非常階段を使うことにして。 主任は気にすることないよって言ってくれたけど、 そんなの実際無理だもん。 あんな小さな箱の中で、 コワイお姉さま方に囲まれて、 どこにも逃げられない。 そういう状況、経験したことないから言えるんだ。 1度ためしに乗った時なんて、目的の階まで、 聞こえよがしに悪口言われ放題。 あれを、もう1回味わうくらいなら、 別にエレベーターなんて乗れなくたっていい。 『そもそも、 なんでここまでされなくちゃならないの?』 って違和感が、私の中にずっとあったんだけど、 それについては、 主任が会長のお孫さんだってことがわかって、 ようやく腑に落ちた。 「あ!早苗さん、おは、」 「瑞月ちゃん!ちょっと、こっち!」 出社早々、挨拶もそこそこに、 同じ営業部の早苗先輩が私の腕をつかんで、 引きずって行く。 連れてこられたのは、 あまり使われていない第2備品室。 「ちょ、どーしたんですか?」 わけがわからないまま、とりあえず声を潜めた。 さっきの表情だけで、ただ事じゃないってことはなんとなくわかる。 「どーしたじゃないって!あんた、今日もう帰りなさい!」 「え?帰るって…?」 それだけじゃ話が見えなくて、 先輩の言葉をおうむ返しする。 「聞いたよ、工藤と別れたんでしょ?」 「な!?なんで知ってるんですか?」 「痛い!」 「あ…、すみません…。大丈夫ですか?」 驚きのあまり、 早苗先輩の腕をきつく掴んでしまって、 慌てて手を放した。 「ん、大丈夫だよ。 それより、その話、私だけじゃなくて、 みんな知ってるよ! しかも、…ふったんだよね?」 「え、なんで…」 思わず口元を押さえて、壁に寄りかかる。 ショックが大きすぎて、 部屋の景色が歪んで見えた。
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