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旧友が訪ねてきた、と聞いて、来客用の小部屋に来たら、そこにいたのは知らないおばあさんだった。
しかも、そのおばあさんが、私の顔を見て驚くのだ。
「あなたが式部だったの?」
私にとっても知らない人なのだけれど、おばあさんにとっても、『知らないけど知っている人』のようだ。ややこしい。
しかも、なんだかにやにやしていて…口調も妙に若くて、馴れ馴れしくて…。
高級品には見えない衣装だけれども、立ち居振舞いが、落ち着いている。客のわりに宮中に慣れている様にも見える。だからこそ、取り次ぎされてここに至ったのだろう。
…不気味だ。
「私の存じ上げない方とお見受けいたしますが、どちら様でしょう。それとも、手違いでしょうか?」
「いいの、お構い無く」
こっちが、構うに決まっているでしょうが。
知らない人に、顔見てにやにやされているんだから!
「覚えてないかー。だよねー。内裏(だいり)を去ってから大分経つから、私は、外見もかなり変わったと思うし」
そんな親しげに話しかけられたからといって、ハイそうですねと親しげに返せるはずがない。
「その顔、覚えてる。いい年して、来たばかりで慣れてなくて、それでも、楽しめばいいものを、辛気くさそうに出仕しててさ」
ぼんやり、記憶に触れるものがあった。
「この世は面白いことばかり、よ。ねぇ、人生観かわった?」
「あなた。もしかして…」
そうだ。昔、と呼べるくらい前。美しくない顔を晒すことが耐えがたくて。
それ以上に、男性の視線やら、主の寵やら、機知を見せびらかす機会やら…何かしらを獲ようと、表面穏やかに、目だけをぎらぎらと光らせている同僚たちにうんざりもしていた。
まだ、こちらでは新人であった頃。
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