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「私は、貴女の話が好きよ。早く続きが読みたいわ」
「それは。ありがとうございます」
何度も何人にも、人によれば顔を会わせるたびに言われる言葉なので、息をするかのように返事をしてしまった。
このおばあさんは、私のことを知っているのだと、改めて思う。
「やっぱり、源氏の君には、きらきら耀いて頂かないといけないと思うのよ!
明石なんかに、流浪するのはちょっと…。
まぁ、『うら寂しい場所に美形』という場面も、美味しくはあるんだけども。そこのところはアレよね、『伊勢物語』風味よね。
失意の貴人が、出会う運命の人…!
いや、明石に源氏の君に釣り合う女人(にょにん)などいるはずないしねぇ。まだ近場の宇治とかなら分かるんだけど」
『光源氏の物語』についての、止まらない喋りの奔流に押されそうになる中、本来最初に切り出すべき用件を思い出した。
「すみませんが」
おばあさんは、口を扇子で隠して、ことばを止めた。
「いったい、どなたでいらっしゃるのでしょう。御用件は何ですか?」
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