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「清少納言…」
人を食ったような、飄々としたおばあさんは、肯定の笑みを浮かべた。
部屋に射し込んだ月光が、顔を半分隠す扇子の金泥をきらきらと輝かせる。
雇い主(藤原道長)の敵であった、中宮定子さまの女房。その代表格と言える。
定子さまの綺羅を作り上げる大きな歯車。
宮中に慣れているはずだ。何年もここの第一線で過ごしたのだから。
「貴女、作風は仄(ほの)めかし仄めかしばかりなのに、言うことは明け透けね。気を付けなさいな、只でさえ目を付けられやすい立場なのに、今の状況は貴女に利するものではないでしょう。押しも押されもせぬ寵と思っていても、いつ崩れ落ちるか判らないのが、世の中というもの…あ」
永遠に続くかに思えた話はぱたりと扇子に封じられた。
「もう貴女、新人なんかじゃあないのに」
くどくど言った自分に反省している、らしい。
「で、御用件は」
「あ、そうそう。だって貴女散々なんだもの、どんだけ私が気にくわないんだか」
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