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「『御出産日記』に、清少納言に関する記述があった、と?」
「そう。あった」
雲が月を隠して、また月が顔を出す間、沈黙していた私の急な質問に、清少納言はゆったりと頷く。
「けれど、『御出産日記』ではないわ。『紫式部の日記』よ」
『紫式部の日記』ーー?
まがい物が?
誰かの手によって?
否。
否。
混入?
そう。故意の混入。
女房の部屋に入れるのは?、
部屋から執筆したものを手にする事ができるのは?
決まっている。
雇い主。
藤原の道長、その人しかいない。
「あぁ…」
ため息のような、納得の声のような。
自分の口からこぼれた一息で。
「あぁ」
清少納言は、納得の声をあげる。
「道長さまね、驚かないでよ。貴女分かりやすいって言ってるでしょ」
それに。
「私だって、道長さまのこと知っているのよ。敵対しているのに、贔屓したって、同僚たちから白い目で見られるくらいにはね」
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