第1章

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第1章

廃墟にあたしは佇んでいた。 ドラス。 緋色なる夢見姫が壊滅させた都市だ。 人っ子一人もいない廃墟にたたずむあたしはふうん、と見回した。 ちなみにあたしは人っ子ではない。 魔女だ。 人は北の魔女と呼ぶだろう。 人というか聖導女達か。 しっかしなにが気に喰わなくてここを吹っ飛ばしたもんだか。 ああ。 気まぐれかな? 気紛れならもここじゃないとなんて理由はないのか。 あれだなあ。 ご機嫌ななめなんて線もないしな。 あたし達は。 悪意のみの存在とか思われてるしな。 殆どがそんな存在になってるから無理もないが。 ヒトの形すらしてないしね。 あたしはヒトのかたちをしているが。 知らないんだろうなあ。 ここに来たのは理由はない。 旅のついでの観光だ。 ドラスのことは問題にしていない。 緋色なる夢見姫にも興味はない。 魔女同士が関心を持つことはないのだ。 なにせ異形の存在だから。 おのおの好き勝手やるだけ。 好き勝手ねえ。 好き勝手にしても理由はあるんだろうなあ。 魔女自身が魔女の全体を知りえないなんてみんな知らないだろうなあ。 瓦礫をコツンと蹴る。 知らないことに挑むんだから難儀だよなあ。 人の皆さんは。 あたしが見習いであった頃の記憶はない。 どんな人間だったのかね。 過去は過去。 今はオズマ・カンザスとかいう聖導女に興味がある。 東の魔女を倒し、銀の靴を奪った聖導女に。 つまり魔女の力を手に入れた聖導女に。 それはイレギュラーな事態だ。 聖導女が魔女に勝てないのはお決まりなのだが、そのオズマ・カンザスとやら、お決まりをくつがえした。 面白いじゃないの。 聖導女が魔女の力を手にいれるとどうなるんだか。 前代未聞の事態だ。 私もずいぶん長く生きてきたが、そんなことはほんと、今回が史上初だ。 東の魔女は気質としては穏やかだった。 気難しくもあったが、東方全体を統べる魔女としてそこいら一帯の魔女達の力を制御していた。 そう、あたし達がいなけりゃ世界はとっくに破滅しておじゃんになっていたのだ。 アルカナスの神女の力は昔と比べると比べようもないほど弱まっている。 これもあまり知られていないらしいが。 昔はこんなに自由に行動はできなかった。 しかしアルカナスで何が起きているのかは興味ない。 聖導女にも興味ない。 見習いにも興味ない。 だが、今回ばかりは違う。 東の魔女が倒されたのだ。 だからこうしてわざわざドラスに来てみた。
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