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「アザラシのぬいぐるみ? でも箱の大きさはともかく、ぬいぐるみにしては重かったと思うけど」
「機械が内臓されているからな。じゃあちょっと起動させてみる」
「動くの?」
疑わしげに芳文の腕の中に視線を向けた貴子だったが、芳文がごそごそと手を動かすと、アザラシがピクリと前脚を動かしながら小さな声を発した。
「……きゅい?」
「鳴き声まで出るの!?」
本気で驚いた声を出した貴子に、芳文は楽しそうに説明を加える。
「ああ。触ったり撫でたり、軽く握ったりすると反応するぞ? 明暗とかも判断するし、好き嫌いとかも表現するしな」
「本当? ええと、それじゃあ」
そう言って頭を撫でてみようと手を伸ばした貴子だったが、顔から突き出ている何本かの髭を軽く押してしまった途端、芳文の腕の中でアザラシが軽く身を捩って貴子から顔を背けた。
「きゅぅ~ぅん……」
「え? あ、ひょっとして、ヒゲって触られるの苦手なの? ごめんごめん!」
貴子が慌てて髭には触らない様にして頭を撫でてあげると、アザラシは機嫌を直した様に向き直って貴子を見上げ、軽く後ろ脚を動かしながら嬉しそうな声を上げた。
「ふきゅ! きゅうぅっ!」
「うわ、何これ可愛い! 瞬きしたわ!」
「おう、喜んでるな。名前を呼んで可愛がってやれば、リアクションも段々増えるぞ? 内部のシステムに学習機能も付いているからな」
忽ち笑顔になった貴子を見て、芳文も笑いながら説明すると、貴子は心底感心した声を出した。
「へえ~、凄いわね。今はこんな玩具も有るの?」
「玩具じゃなくて、正確にはセラピーロボットだ。ちゃんと効果も実証されてて、病棟や老人介護施設等で導入されてるぞ?」
「そうなんだ」
素直に頷いてから、貴子は素朴な疑問を覚える。
「……何でセラピーロボットが、こんな所にあるの?」
その質問は当然予想されていた内容であり、芳文は落ち着き払って答えた。
「俺の専門は精神科で、クリニックは内科の他に精神科と心療内科併設なんだ。今度これを導入しようかと考えているんだが、その前に自分で実際に試してみようと思ってな」
「ああ、なるほど」
一応筋が通った話であり、貴子は素直に頷いた。しかし続く話に少し戸惑う。
「だがこの年で、じっくりぬいぐるみを撫で回すってのもな。お前日中暇だろうし、これをかまって感想を聞かせてくれないか?」
「感想? それは構わないけど……」
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