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隆也は反射的にスマホを耳から離してから、呆れた様に相手に言い聞かせる。
「おい、ちょっと落ち着け。どうした」
「宇田川先生が人質になってるんです!!」
動揺しているらしい西脇の台詞に、隆也は一瞬思考が停止した。
「何を言っている?」
「青葉銀行新野支店襲撃立て籠もり事件、まだ課長の耳に入って無いんですか!?」
「一報は入った。……本当か?」
途端に顔付きを険しくして確認を入れた隆也に、何とか落ち着きを取り戻したらしい西脇が、本題を口にする。
「とにかく、どこかのテレビを見て下さい。ちょうど夕方のニュースの時間帯で、繰り返し中継映像が流されてます」
「分かった。一度切るぞ」
断りを入れて通話を終わらせると、まだ残って仕事をしている部下達から怪訝な視線を向けられていたのは分かっていたが、それは無視してイヤホンを付けたスマホでテレビの受信を始めた。
「……それでは、先程人質の中にいた妊婦が出てきた場面を、もう一度振り返ってみます」
そのキャスターの台詞に、苛々しながらチャンネルを変えていた隆也の指の動きが止まり、黙ってその画面を見守っていると、店内から台車を押して出て来た貴子の姿が小さく映し出された。
「シャッターの奥に、チラッと犯人らしき人影が見えますね」
「はい、そしてここで産気付いて、歩くのも困難な妊婦を台車に乗せてカメラの方にやって来るのが、あの料理研究家の宇田川貴子さんです」
(何をやっている……。確かに最寄りの銀行だろうが、何て間の悪い。それに出しゃばらないで、おとなしくしていられないのか?)
忌々しく思いながらスタジオのコメントを聞き流していると、隆也の予想外の言葉が耳に飛び込んで来た。
「……さて、ここで宇田川さんが飲料水と軽食持参で、中に戻ります」
(は? 何の冗談だ? 本当に中に戻ったのか?)
さすがに自分だけ先に解放されたら気まずいし、立場が無いだろうとは思ったものの、隆也は一瞬本気で呆れた。そんな中スタジオでは、感嘆の溜め息が漏れる。
「いやぁ、恐れ入りましたね。宇田川さん、取り乱している様には見えませんでした」
「私だったら、そのまま逃げ出してるかも」
「報道の人間として、そういう言動は慎む様に。気持ちは分かるがね」
「現場のレポートによると、彼女は落ち着き払って警察に内部の情報を伝えた様です」
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