第10章 急展開

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 貴子が持ち帰った飲料水や軽食は、貴子と他に紐を切って貰った女性五人が手分けして全員に食べさせ、何とか人心地つく事ができた。そして再び全員手首を縛られて少ししてから犯人の指示で待合室を出て、階段を上がってすぐの広い部屋に押し込められる。  部屋の片側に長机がたくさん寄せられ、空いたスペースに人質全員を座らせたのを確認した犯人達は、「おとなしくしてろ」と言い捨ててドアの向こうに消え、姿が見えなくなった。そして彼らが戻って来ない事を確認してから、貴子が隣に座っていた行員に声をかけた。 「すみません。私の腰からハサミを取って下さい。実は外に出た時、人質が全員ビニール紐で手首を縛られている話をしたら、警察の方から渡されたんです」 「本当ですか?」 「どうして黙ってたんです?」 「それにそんな物どこに?」  貴子の発言を耳にした周囲が色めき立ったが、彼女は「静かに!」と小声で制して説明を続けた。 「すぐに出したいのは山々でしたが、犯人の目の届く所で紐を切れませんから。私のパンツの腰に斜めに挿してあります。カーディガンに隠れて取りにくいと思いますが、取って貰えますか?」 「分かりました」  話しかけた女性に背を向けると、彼女は縛られたまま貴子のカーディガンを捲って、腰に差し込まれていたハサミを回収した。
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