第10章 急展開

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「取りました! じゃあ宇田川さんから」 「私は最後で良いです」 「え? でも……」  まず持って来た貴子からと考えた彼女は当惑したが、貴子は冷静に理由を説明した。 「犯人にしっかり顔と名前を覚えられて、これからまた何かさせられるかもしれません。呼びに来た犯人に、手が自由になっている所を見られたら拙いです。ですから暫くこのまま出入り口から見える所にいて、犯人をごまかします」 「でも……」  尚も躊躇っている彼女に、ここで上司が指示を出した。 「彼女のご好意に甘えなさい」 「支店長?」  周囲の行員達が顔を向ける中、少し離れた所から立ち上がって近付いてきた男性が、冷静に判断を下した。 「まず他のお客様の紐を切って、順次後方に場所を移って頂きなさい。それから背後の人間の手元を隠せる様に、体格の良い者は何人か前に出て来るように。手元を隠す為に、皆で後ろを向いていたら目立つ」  それを受けて、何人かの行員がきびきびと動き出す。 「じゃあ俺達が前に出ます」 「切った紐の切れ端、散らかさない様に纏めておけ」  そして指示を出した支店長は貴子の隣に座り込み、如何にも申し訳無さそうに頭を下げて、謝罪の言葉を口にした。 「宇田川様、大変ご迷惑をおかけしております」 「いえ、お互いに災難ですね」 「全くです」  苦笑いした貴子に、支店長が困り顔で頷く。そこで貴子は更なる懸念を口にした。 「支店長さん。実はさっき警察の方の背後に、物々しい装備の集団を見かけたんです。ここに強行突入する部隊かもしれません」 「本当ですか?」  瞬時に顔色を変えた支店長に、貴子が真顔で頷く。
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