第10章 急展開

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「きちんした話はありませんでしたが、『可能なら人質を拘束している紐を切っておいて下さい』と言われてハサミを腰に差し込まれたので、その場合の危険性を減らす為かと」 「これ以上不測の事態が起こらなければ良いのですが」  益々難しい顔付きになった支店長に、貴子はさり気なく尋ねた。 「一応、この場所からの逃走経路を確認させて下さい。上がってきた階段ですか?」  それに対して、すぐに明確な否定の言葉が返ってくる。 「いえ、ドアを出てすぐ右にあるそちらは、降りるとすぐロビーに繋がっています。逃げるとしたらドアを出て左に進んで、突き当たりを曲がった所にある階段です。そちらですと降りてすぐ通用口ですし。バリケードはあるみたいですが」 「それならいざという時に慌てない様に、その事も皆さんに伝達しておいた方が良いかもしれません」 「確かにそうですね」  そんな二人のやり取りを聞いた周囲の行員達が、早速数人立ち上がる。 「それでは私達が後方に行って、手分けして伝えてきます」 「そうしてくれ」  それから貴子は周りの者達と世間話をしながら、その合間に今後の手順を頭の中で思い浮かべた。 (何とか、話を誘導できたわ。前に投資セミナーでこの会議室に来た時、二階フロアまでは構造を把握してて助かったわ。さあ犯人さん達、上手くやれるかしら?)  それから時間を空けて何回か犯人が室内の様子を確認に来たものの、最前線の貴子達がきちんと縛られたまま座っているのを見て、すぐにドアを閉めて立ち去る事を繰り返していたが、部屋の外で唐突に異変が生じた。  何の前触れも無く、上層階から盛大な爆発音と微かな振動が伝わり、更にガラスが粉々に割れて地上に落下する音がはっきりと窓越しに聞こえてくる。 「きゃあっ!!」 「何だ!? 今の爆発音は?」 「犯人って、爆弾も持ってるの!?」  室内の人間は揃って動揺して悲鳴を上げたが、その直後に室内の照明が全て落ちる。 「停電!?」 「ちょっと待て、おい!」  その狼狽が収まり切らない中、今度はドア越しに至近距離と思われる場所からの爆発音が響いた。それで完全にパニックに陥った人質達は、まだ暗闇に目が慣れていない状況にも係わらず、我先にとドアに殺到し、収拾が付かない状態になる。 「きゃあぁぁっ!!」 「助けてくれ!」 「殺されるぞ!!」 「落ち着け!」 「皆、慌てるな! 怪我をするぞ!」
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