第10章 急展開

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(いたた……。思いっきり突き飛ばされて、誰かに踏まれたわね。踏んだ人も転んだっぽいけど)  思いっきり床に突き飛ばされて、痛みに顔を顰めた貴子だったが、人気が無くなった室内で何人かに助け起こされた。 「宇田川さん! 大丈夫ですか!?」 「怪我は?」 「何とか大丈夫です。ご心配なく」  短く答えると、行員らしい男は申し訳なさそうに貴子の腕を取って立たせた。 「すみません、今の騒ぎで鋏がどこかに転がりまして。このまま外にお連れします」 「お願いします」 「支店長、大丈夫ですか?」 「ああ、他に室内には誰も居ないな?」 「はい、もう私達だけです」 「急ぎましょう」  貴子同様、最前列にいた為に突き飛ばされて逃げ遅れた支店長も助け出され、四人で注意深く廊下へと出た。するとドアを出てすぐ右手の階段の上がり口の所で、何かが激しく燃え上がっているのを認める。 (派手に燃えてる。それにスプリンクラーも上手く沈黙させたのね。なかなかやるじゃない)  そして支店長と共に手を引いて貰って廊下を進み、先程話していた奥の階段を下りようとした所で、貴子達は予想以上の大混乱になっている事態に直面した。 「うわぁっ!!」 「どけっ! 邪魔だ!!」 「きゃあぁっ! 危ない!」 「皆さん、落ち着いて下さい!」 「もう、大丈夫ですから」 「どこが大丈夫だ! 上で爆発してんだろ!」 「邪魔なんだよ! 道を塞ぐな!」  狭い通路と通用口の決して広いとは言えない空間に、バリケードの残骸とパニックになった人質、突入してきた重装備の特殊部隊の人員が入り乱れて、酷い混乱状態を呈していた。更に手足の打撲や骨折等でか動けずに蹲っている者や、意識が無い者も数名散見され、予想以上の惨事にさすがに貴子も眉を顰める。 (うわ……、最悪のパターンと言うか、想像以上の混乱っぷり。階段とバリケード付近で、突入部隊もろとも将棋倒しになったとか?) 「取り敢えず、外に出ましょう。ここに立っていたら、警察の方の邪魔になります」 「そうですね」  そして行員に促されて、貴子達は怪我人を運び出す警官の間を縫う様にして、外へと抜け出た。 「た、助かった……」 「怖かったぁぁっ!」  外に出た殆どの人間がへたり込んで泣き言を漏らしている中、支店長は気丈に貴子を振り返って声をかけた。 「宇田川さん、大丈夫ですか? すぐにハサミを借りて紐を切りましょう」
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