152人が本棚に入れています
本棚に追加
/134ページ
「警察の方が大勢いる所まで行って、切って貰います。怪我人の方が結構出たみたいなので、そちらの方の対応をしてあげて下さい」
「分かりました。お気をつけて」
そこで支店長と別れた貴子は、周囲の座り込んでいる者達に向かって、声を張り上げた。
「じゃあ動ける方は、私に付いて来て貰えますか? すぐ帰宅させて貰える様に、警察の担当者に交渉しますから」
それを聞いた者達は、行員はさすがに後処理でこの場を離れられないながらも、客として拘束されていた者達は「本当か?」「すぐ帰して貰えるなら嬉しいが」などと半信半疑の顔付で、十数名が大人しく貴子の後に付いて移動を開始した。そして対策本部として急遽借り上げたらしい貸店舗に真っ直ぐ向かってきたその一団に対し、周囲の警備に当たっていたらしい私服の刑事と警官が、顔色を変えてすっ飛んできた。
「待って下さい。勝手に移動されては困ります! こちらの指示に従って下さい!」
慌てて指示してきた刑事に、貴子は居丈高に言い放った。
「はぁ? あなた達の不手際と怠慢のせいで、私達が今まで何時間拘束されたと思ってるの!? これ以上待たされるのは御免よ。帰らせて貰うわ。それから何か刃物はない? これを切りたいのよ」
「勿論、紐はすぐ切りますが、そういった勝手な事は!」
「どうした。何を揉めている」
「そちらは人質だった方達だろう? 早く保護しなさい」
偶々警官が所持していた小型のハサミで、素早く貴子の手首を縛っている紐を切っていると、対策本部の方から年配の二人組が近付いて来た。目の前の人間の上役だと容易に想像できた貴子は、すぐに攻略対象をそちらに変更する。
「あなた達がここの責任者? さっさと私達を帰して! どれだけ不自由な思いをさせられたと思ってるの!?」
怒りの形相で貴子が要求を繰り出したが、当然相手は困った顔になりながらも冷静に言い聞かせてきた。
「ですが、一応事情聴取をさせて頂かないと」
「これから!? 冗談じゃないわ! そんなの明日でも良いでしょう?」
「いえ、そういう訳には」
「だって支店内に、荷物を起きっぱなしなのよ? お財布も通帳もカードも! 嫌でも取りに出向かなきゃいけないんだから、その時に幾らでも話すわよ!!」
「そうは言われましても」
「お怒りはごもっともですが」
最初のコメントを投稿しよう!