第10章 急展開

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 そして遠目に支店ビルから捜査員や突入部隊が大勢引き上げてくるのを見て取った貴子は、落ち着き払って周りの人間に頭を下げた。 「それでは皆さん、申し訳ありませんが、これから仕事がありますので失礼します」  それを聞いた取材陣が、揃って驚愕や困惑の表情になる。 「仕事?」 「まさか宇田川さん、これから収録ですか?」 「はい、レギュラー番組が、今日二時間拡大版で生放送なんです。今からだと大幅な遅刻ですが、取り敢えず仕事ができる状態になったわけですから」  それを聞いた面々は、揃って感心した顔付きになった。 「本当にこれから向かうつもりですか」 「さすがですね」 「頑張って下さい」 「はい、それでは失礼します」 「じゃあ次は、あっちの人にインタビューだ!」 「行員の話も聞かないと。役付きは居ないか?」  これ以上引き留めるのは悪いと判断した取材陣は、あっと言う間に四方に散り、貴子は難なく人混みに紛れてその場から離れる事に成功した。 そして(何とかセーフ)と貴子が胸を撫で下ろしている頃、現場では重大な問題が発覚していた。 「全く……。父娘揃って、いけ好かない」  ブチブチと有吉と譲原が宇田川父娘の悪態を吐いている所に、新野署の捜査員が真っ青になって駆け戻って来た。 「課長、大変です! ビル内部をくまなく捜索しましたが、犯人の姿がありません! もぬけの殻です!!」 「何だと!? そんな馬鹿な!」  思わず声を荒げた二人だったが、続けてやって来た本庁から派遣されている突入部隊の班長が、硬い表情で補足説明する。 「犯人達が所持していたという、拳銃も発見できません。更に数ヶ所炎上した場所からは、各種スプレー缶が発見されていまして、爆発物が持ち込まれた形跡も見受けられませんでした。その燃え跡から、犯人が着用していたと思われるジャンパーやジーンズ、スニーカーの燃え残りが、複数発見されています」 「まさか……」  そこで唖然とした顔を見合わせた二人は、瞬時に険しい顔になって背後の部下達に叫んだ。 「おい、人質の連絡先を控えさせるのは中止だ!」 「帰っていく奴も引き止めろ!」 「課長? どうしたんですか?」 「良いから黙って言うとおりにしろ!!」 「課長! 怪我人全員の搬送、終了しました!」
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