第10章 急展開

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 この間支店長の指示で帰宅指示が出た行員が列に並び始め、連絡先を記入していたが、ここで強引に譲原がクリップボードを取り上げた為、周囲から抗議の声が沸き起こった。しかし譲原はそんな事には構わず、報告してきた部下に噛み付く。 「何人だ?」 「搬送された人質は、何人だと聞いてるんだ!」 「はい! 重傷者二名、軽傷者十三名です!」 「今ここには何人並んでる? そして支店長から電話で飲食物の要求が有ったのは、何人分だった?」 「ええと、先程手配したのは人質が七十九名分、犯人六名分です」 「それで今、列に並んでいるのは……、ちょっと待って下さい。……三十七人ですね」  周囲の幾人かの警官が、真顔に真顔で答えたが、それを聞いた譲原は、手元記入された内容を見下ろして、蒼白になった。 「名簿は……、既に三十三人分書かれてる。やられた、六人多い」 「課長!?」  譲原の呟きを耳にした周囲の捜査員が、正確に現状を理解して顔色を無くす中、有吉の怒声が響き渡った。 「大至急、緊急配備! それと何とか理由を付けて、マスコミから映像を提出させろ! 出てきた人間を撮影してる筈だ!」 「はい!」  そして捜査陣は事態の深刻さに動揺しつつも、その失態をあっさりと外部に漏らす訳にもいかず、現場は益々混乱を極める事になった。 「もしもし? 西脇どうした?」 「課長、先生から連絡はありましたか?」  自主的に残業続行中だった隆也が、西脇から再度電話を受けて開口一番言われた内容で、素早くその用件を察知して確認を入れる。 「特には無いが。人質が解放されたか?」 「はい」 「まさか現場に出向いているのか?」 「気になりまして」 「ご苦労だったな」  思わず苦笑して部下を労った隆也だったが、何故か西脇は声を低めて報告した。 「それが……、新野署の連中が妙な感じです。一旦落ち着いたと思ったら、急にバタバタし始めまして」 「どういう事だ?」  怪訝な顔になって確認を入れた隆也に、西脇が更に声を潜めて推測を述べる。 「一向にビルから犯人が連行されて来ませんし、怪我をして搬送された様子もありません。マスコミも騒ぎ出していますし……。犯人が逃走したのではないでしょうか?」 「まさか! あれだけ包囲していたのにどうやって?」  信じられない思いで問いを発した隆也だったが、ここで西脇が困惑した声で、ある事を口にした。
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