第11章 復讐の第二幕

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「何とか収録時間内には、スタジオ入りできそうね」  かなりの遅刻で収録予定のテレビ局に到着した貴子は、まっすぐスタジオには行かず、同じフロアのトイレに直行した。そして洗面台に水を溜め始めると同時に、スマホに収めてある音声データを呼び出す。 「じゃあ、名残惜しいけど……」  そう言いながらそのデータを再生させると、かつて貴子と啓介の間で交わされた会話の内容が聞こえてきた。 「……だから、あの人にちゃんと言って頂戴! 悪いのはわざとボールを蹴り込んだ康介達なのよ!? それなのにあの人ったら、注意した美弥子さんをクビするって言うのよ?」 「何をつまらん事をグダグダ言ってるんだ! お前が言われた通りだろうが! 黙って言う事を聞け!」 「どうしてよ!? 美弥子さんまで怪我したのに辞めさせられるなんて、どう考えても間違ってるわ!?」 「五月蝿いぞ! 私に同じ事を何度も言わせるな! お前と違って私は忙しいんだ!」 「……分かりました」 「最初からそう言え。このグズが!」  当初録音した物から、保存媒体を変更しつつ保存して二十年近く。その間に自分の声だけを消したパターンも作り、当時の怒りを忘れないためだけにずっと消去せずに保持していた貴子は、満足そうに小さく笑った。 「あの女に聞かせる為に録ったこれが、二十年近く経ってから役に立つなんてね。良く取っておいたものだわ」  そして十分溜まった水を見て、水流を止めた貴子は、その中にスマホを躊躇う事無く沈め、底に押し付ける。
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