第11章 復讐の第二幕

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「今度こそ、さようなら。“お父さん”」  冷たく見下ろしながら、そう呟いた貴子の手の下では、生活防水程度の機能しか保持していないスマホが、抵抗などできず少しの時間で呆気なく沈黙した。それを確認した貴子は満足そうにそれを水から引き上げ、使い捨てのペーパータオルを何枚も使って水分を拭き取ってから、これまで通りパンツのポケットにそれを突っ込んでスタジオへと向かった。 「……ここで驚きの登場! つい一時間前まで、立てこもり事件の人質になっていた、宇田川貴子さんです!」  コソコソとスタジオ入りし、顔見知りのスタッフに声をかけると、既に騒ぎを知っていた皆は貴子の登場に仰天したが、すぐさま段取りを整えて調整に走り回り、司会者に指示を出してトークの合間に彼女を登場させた。途端に共演者と観覧席の両方から、どよめきと驚きの声が上がる。 「え? 嘘!?」 「貴子さん!? 大丈夫ですか!」 「うわ、まさか現場から直行?」 「そうしたけど、大遅刻ですよね? こんなにスタジオ入りが遅れたのは、初めてです。すみませんでした」  貴子が笑顔を振り撒きつつ登場し、司会者に頭を下げると、相手は半ば呆れた様に言葉を返した。 「いやいや、貴ちゃん。あんな事があったのに、普通に仕事に来るって思わないから」  そんなやり取りをしながら勧められた椅子に座った貴子に、周囲から好奇心に満ち溢れた視線が突き刺さる。 (さあ、これであんたのキャリアにとどめを刺してあげる。ついでにあんたとの縁も、今度こそ綺麗さっぱりぶち切れるわよね?)  そんな中、これまでで一番好戦的な気分で父親への復讐について策を巡らせていた貴子は、傍目には分からないながらも完全に平常心と理性を失っていた。
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