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「夜分、申し訳ありませんでした。それでは、失礼します」
人気の無くなった職場で電話をかけていた隆也は、丁重に礼を述べて通話を終わらせた。そしてスマホを耳から話しながら、忌々しげに呟く。
「全く、手間をかけさせてくれる。詳しい話は明日になるだろうが、やはりこの際きちんと説教をするべきか……」
そんな事を考え込んでいると、間を置かずにかかってきた電話の発信者名を見て、隆也は意外そうな顔になった。
「芳文?」
そして一瞬不思議に思いながらも、応答することにして軽口で応じる。
「どうした。あいつなら少し前に解放されたぞ?」
「ああ、知ってる。今テレビを見てるからな」
「テレビ?」
「中継で解放されたのは知ってたが、電話が繋がらなくてな。今日はレギュラー番組の生放送って聞いてたから、一応見てみたらしっかり出演中だ」
淡々とした口調で芳文が報告してきた為、隆也は疲れた様に溜め息を吐いた。
「馬鹿か、あいつは。こんな時位大人しく帰れ。周りに散々、心配させやがって」
「俺も同感だ。あんな事を公共の電波で喋りまくるならな」
その一言で、隆也は瞬時に顔付きを険しくした。
「何を言った?」
「現在進行形だ。今すぐ関東テレビを見ろ」
「後から電話する」
互いに余計な事は言わずに通話を終わらせ、隆也は再びテレビを見始めた。そして芳文が指示したチャンネルに設定した途端、喧騒が伝わってくる。
「いやぁぁっ! 私、そんな怖い思いをしたら、心臓止まりますぅぅっ!!」
「ホント、宇田川さんって度胸ありますよね~」
どうやらトークコーナーは貴子の話で進んでいるらしく、彼女が困惑気味に周囲を宥めている所だった。
「ほら、皆に怖い思いをさせちゃったし、私の間違ったイメージが世間に広がりそうだから、もう事件の話は止めましょうよ。私、今日は梶山さんから、芸能界の暴露話を聞けるのを楽しみにしてきたのに」
すると彼女の隣に座っているベテラン女優の梶山景子が、苦笑いしながら貴子の肩を叩く。
「宇田川さん、諦めましょうね? 私の話なんてカビの生えた話ばっかりだから、全然面白くないわよ。ほらADさんだって『もっと事件の話で引っ張って』ってフリップに書いてるわよ?」
にこやかに笑いつつ、前方にしゃがんでいるらしいADを指差す仕草をした梶山に、司会者も力強く同意した。
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