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「じゃあ貴子、風呂を入れて、先に入っていて良いぞ?」
「そう? じゃあお先に」
自宅マンションに帰り着いて早々、体よく風呂場に貴子を追い払った芳文は、独り言を呟いた。
「さて、あいつに連絡を入れておかないとな。苛々してると思うし」
そして隆也と幾つかのやり取りを済ませてから、紅茶を淹れてカップ片手にソファーに座り、ニュース専門チャンネルで事件の続報が入っていないかチェックし始めた。そんな事をしているうちに、貴子が身体にバスタオルを巻き付けただけの姿で、リビングに戻って来る。
「上がったか」
「ええ、さっぱりしたわ。気分爽快よ」
「それは良かったな。ああ、着替えを出しておくのを忘れてた。今出すから」
「そんなのは要らないから、芳文もお風呂に入ってきて。私、ベッドで待ってるから」
腰を浮かせかけた芳文を、貴子は隣に座りながら笑顔で制した。それを聞いた芳文が、途端に嫌そうな顔になる。
「生憎と、今夜はそんな気分じゃ無い。悪い事言わないから、さっさと一人で寝とけ」
そんな事を淡々と言われた貴子は、驚いた様に目を見張った。
「はぁ? じゃあどうして私を、テレビ局までわざわざ迎えに来たわけ?」
「そりゃあ、理性ぶっ飛ばして暴走しっ放しの、馬鹿妹の回収?」
「グダグダ言ってないで、付き合いなさいったら!」
茶化す様な物言いに完全に腹を立てた貴子は、両手で芳文の肩を掴んだと思ったら、勢いを付けて相手に伸し掛かった。当然芳文と貴子はソファーに重なって倒れ、女に押し倒された経験など滅多に無い芳文が苦笑を漏らす。
「おいおい、いきなり襲うなよ……」
その呟きに貴子は勢い良く身体を起こし、芳文の腰に跨って見下ろしながら、憤然として怒鳴りつけた。
「以前だって似た様な事言ってたくせに、最後は散々してたじゃない! やる気が無いなら、その気にさせてやるわよ!」
そう言って乱暴な手つきで自分のシャツのボタンを外し始めた貴子を見て、それに抵抗などはしないまま、芳文がどこかのんびりと声をかけた。
「あのな、貴子?」
「何よ? 女に手間かけさせるなんて、最低よね!」
「一応忠告しておくが、そろそろ止めておいた方が良いと思うぞ?」
「余計なお世話よ。黙ってて!」
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