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その日はとてもお天気の良い日でした。
凉葉姫はお供も連れずに、お城を出て、街を抜けて、森へ向かいました。
赤いずきんを被り、葡萄酒とケーキの入った籠をぶら下げて。
そう、今日はおばあさまの家へ行くのです。
凉葉姫は森が大好きでした。
だって、小鳥が鳴いて、色とりどりのお花が咲いて、窮屈なお城とは違い、なんて森は素敵な所なんでしょう。
『いいか、凉葉や。途中で道草をしてはならんぞ? それから悪い狼には用心するのだ。話しかけられても答えてはいかんぞ? 』
楽しい気持ちでスキップしながら道をゆく凉葉姫は、お城を出る時に王様である父親から言われたことなんか、もうすっかり忘れてしまっていました。
だから、突然声を掛けられて、相手が誰かを確かめずに返事をしてしまったのです。
「こんにちは。赤いずきんがとても可愛い凉葉姫 」
「こんにちは。あら、あなたは? 」
すぅっと伸びた高い背。サラサラとした銀色の髪と、ハッと目を引く整った顔立ち。しかし、頭の横にぴょこんと見えるのは……。
「あなた、まさか狼さん? 」
「えっ?! なんで分かっ……ッ? 」
「だって、お耳が…… 」
「げ!! 嘘だっ! 」
どうやら目深に被ったパーカーのフードで隠れていると思っていたらしいのです。
今更遅いのに、慌てて耳を隠す狼に、凉葉姫はクスッと笑いました。
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