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それを怯んだと取ったのか、狼が話を続けます。
「か、帰って来たばあさんに、こんなトコ見られて困るのはお前の方だろうが! 」
分かったら俺の上から早く退け!と言った狼に、突然凉葉姫がコロコロと笑い出しました。
「本気で言ってるの? 」
「何、笑って……?」
「私のお祖母さまが、一人でこんな森の奥に暮らしてる訳ないじゃないの 」
「……っ!!」
青ざめている狼を見下ろして、今度は凉葉姫が赤い舌を覗かせて舌舐めずりをしました。
「狼さんがずっと私のことを見てたのは知ってたわ。でも、狙っていたのは私も同じ。驚いたのは狼さんの方ね? 」
ふわふわな耳を擽れば、ぶるっと狼が身体を震わせました。
それは、怖いからなのか、それとも……。
凉葉姫はわざと蠱惑的に、狼に笑い掛けます。
「本当に嫌なら、私なんか付き飛ばせばいいでしょう? あなたと違って、私はか弱い女の子なんだから簡単よ 」
こんな罠にあっさりと捕まってしまうくらい自分のことが好きな狼に、そんなことが出来る訳がないと知っていて押し倒せば、狼が「くそう……っ」と悔しそうに吐き捨てました。
「幸せになりましょうね、狼さん☆ 」
凉葉姫の綻ぶような笑顔は、凉葉姫が摘んだお花よりも可憐で綺麗でした。
……こんな本性を誰も見抜けないくらいに。
そして、「だっ、騙されたーーーーーーーっ!!! 」と、狼の叫ぶ声が森中に響き渡りました。
《おわり》
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