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最近の“神”は特に機嫌が悪い。もし、消すのさえ滞るようなことになれば、どんなことをするのか想像もできない。
「わしも寿命ということなのだろう。今まで、“神”と共に歩んできた道は悪いものではなかった。“神”も感謝してくれているだろう。せっかくだから、冥土の土産にゴミ捨て場で何が行われているのか目に焼き付けておこう」
長老は実に落ち着いていた。むしと、今まで生かしてもらったことを感謝していた。若い者達には分からないことである。
長老を掴み上げた白羽の矢は、長老をぶら下げながらゆっくりと動き、ゴミ捨て場に向かう。
(思えば、白羽の矢も動きが遅くなったような)
長老は自分を掴む白羽の矢を見て思う。白羽の矢もまた動きが悪くなりつつあった。“神”に逆らうつもりはないのだが、昔に比べるとスムーズではない。“神”の意志を伝える大事な役割を持つ、白羽の矢も厳しいのだろうか。
彼らは消されることは分かっているが、白羽の矢はどうなるのだろうか。そんな疑問が長老の頭を過ぎる。
やがて、白羽の矢は長老をゴミ捨て場に捨てた。ゴミ捨て場には今まで捨てられた者達が怯えたりして過ごしていた。
(いったい、いつわしは消されるのだろうか)
長老はそんなことを考えていた。こればかりは、“神”の都合でどうすることもできない。
空を見上げると、暗くなり始めた。どうやら、夜が来るらしい。“神”の所行も今回は、長老を一人捨てただけで終わったようだ。長老は少し安心した。他の仲間も連れて来られるかと思っていただけに。どうやら、彼らは生き残れたらしい。
しかし、そんな長老の安心も世界に夜が訪れる直後、“神”の溜息混じりの呟きを聞き打ち消されることになる。
『あーあ。最近じゃ、すっかり遅くなってしまったな。マウスポインタの調子まで悪くなってきた。このパソコンもそろそろ、替え時になるのかな』
どうやら、この世界の終焉はもうすぐ、そこまで来ているようだ。
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