白羽の矢

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 この世界は“神”によって支配されていた。  支配がいつから始まったのか。それは、今となっては覚えている者はいない。ただ、気が付いたら自分達は逃れることができない“神”の支配下にあることを知った。  “神”とは文字通り天地万能の存在のことである。彼らが住む世界に、新たな住民を出迎えることもあれば、世界そのものを作り替えることだってある。少し前までは、一面星空と砂漠の世界だったというのに“神”は一時の気まぐれで、世界を草原と青空の世界に作り替えてしまった。寒い寒い、夜の砂漠に比べれば環境的に悪くはなかったが、それでもまたいつ、“神”がイタズラに世界を変えるのか、彼らは怯えて過ごすしかなかった。  ある時、“神”のあまりの横暴に耐えきれず逆らったことがあった。そうでなくても、皆、“神”に酷使されすぎた。疲れ果て、動きが遅くなる。“神”は残酷である。疲れ、動きが鈍くなると、その者達を次々と消していくのだ。逆らいようのない力で。  ここ最近は、特にその動きが顕著になっていることを彼らは感じていた。 「おい!あれ!」  朝がきて、“神”が動き出した。誰かの言葉に全員が、空を見上げた。雲などほとんどない真っ青な空に、ポツンと白羽の矢が浮かんでいた。 「うああああああ!」  白羽の矢を見た途端、彼らは真っ青になって怯えた。白羽の矢は言うならば、“神”の代行者のようなものだ。“神”は間違いなく存在する。しかし、“神”は直接的に彼らに干渉することはできない。“神”と彼らの間にはどうしても埋めようのない大きな隔たりがあるからだ。“神”の力をもってしても、その隔たりを越えることはできない。故に、“神”は白羽の矢を自分の代行者として世界に出現させる。白羽の矢は協力で、誰も逆らうことができやしない。絶対的な力である。捕まれば、最後、内蔵をさらけ出されるか、捨てられるかの二つに一つしかない。 「か、帰ってくれ!」 「こっちに来ないでくれ!」  彼らは手を合わせて、“神”に頼み込むが、無慈悲な矢が言うことも聞くはずもなく、スーッと狙いを定める。
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