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「それで二課に配属になった時に、一目で君があの時の子だと分かったんだが、俺の事は微塵も記憶に無かったみたいだし、加えて課長に心酔してて迂闊に声をかける気分になれなかったし。一応職場の直属の上司と部下の関係だから、下手に交際を申し込んでも仕事一直線の君からしたら迷惑千万で、ひょっとしたらセクハラパワハラモラハラ規定に抵触するんじゃないかと、色々考え始めたらキリが無くて」
「は、はぁ……、なるほど。言われてみればそうかもしれませんね……」
(そうか、社内恋愛ってそういう問題が発生する場合もあるんだ……、係長って人知れず結構悩みが多い……って、問題はそこじゃなくてねっ!!)
しみじみと納得しかけて、思わず自分自身に美幸が突っ込みを入れていると、城崎が盛大に溜め息を吐いてから心情を吐露した。
「加えて、君が入ってから、大小含めて実に色々な事が有り過ぎて。それにまさか白鳥先輩が君の義兄になっていたなんて……。落ち着いて現状をどう打破しようかと考える心のゆとりが、正直この一年近く無かったんだ」
「……ご苦労様です」
(何か物凄く、係長に心理的負担を与えてきた罪悪感がひしひしと……。流石に全部が全部、私のせいじゃないとは思うけど。なんか課長のご主人に加えて、秀明お義兄さんまで係長のトラウマっぽいけど、どうしてなの?)
混乱に拍車がかかった美幸に向かって、城崎が更にとどめを刺した。
「それで、取り敢えず、俺が君の事を以前から好きな事だけは言っておこうかと」
「えっと……」
「ああ、でも付き合ってくれどうこうは、まだ言うつもりは無いし」
「はい?」
相手の言っている内容が理解できなかった美幸は固まったが、城崎は真顔で確認を入れてきた。
「まだ仕事が楽しくて仕方が無い時期だろうし、正直まだ恋愛云々をまともに考えるつもりは無いだろう?」
「確かにそうですが……」
「だから、ここで無理強いしたりして、君が職場で変に意識して、居づらくなったりするのは避けたいから。君は立派な二課の戦力だし」
「ありがとうございます」
その評価は素直に嬉しかった為頭を下げた美幸に、城崎は軽く笑いながら話を締めくくった。
「そういうわけで、俺との事をまともに考えてくれる状況や心境になったらしいと判断したら、その時は改めて口説く事にするから。一応それだけ覚えておいてくれたら嬉しい」
「はぁ、分かりました」
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