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「それで……、今更こういう事を言うのも気が引けるんだが……、実は俺が君と初めて顔を合わせたのは、入社してからじゃ無いんだ」
「え? 入社試験の時は別会場だし……、面接の為に来社した時に、お会いしていましたか?」
「いや、そうじゃなくて……、君が高一の時に顔を合わせたのが最初だ」
「高一の時? でも係長はその頃既に、柏木産業で働いていましたよね? どこかで接点が有りましたか?」
益々怪訝な顔になって首を傾げた美幸に、城崎は小さく溜め息を吐いて核心に触れた。
「学校からの帰り道、盗撮犯と遭遇して追いかけて、そこで課長が助けただろう?」
「はい、そうですけど」
「当時、同じ職場の先輩だった課長に同行して、俺もその場に居合わせたんだ」
「…………はい?」
言われた意味が咄嗟に理解できず、美幸は真顔で問い返した。その反応を予め予想していた城崎は、気を悪くする事無く冷静に補足説明をする。
「課長の指示で駅員を呼びに行ったから、課長が華々しく盗撮犯をぶちのめした所は目にしていないんだが。一応駅員を連れて戻って来てから、君に軽く挨拶もしたし」
「えっと……、あの、その節はどうも……」
かなり間抜けな顔で殆ど無意識に礼を述べた美幸を、城崎は困った様な表情で宥めた。
「ああ、いいから。俺の事は眼中に無かったのは分かってるし。課長にも余計な事は言わない様に、お願いしておいたから」
「……重ね重ね、申し訳ありません」
(ううう嘘っ!? なんで? どうして? こんな如何にも隠密行動に不向きな、存在感の有り過ぎる人を見逃すわけ!? 確かに課長の勇姿に感動してたけど、有りえないでしょうがっ!!)
軽く頭を下げた状態で、美幸は自分自身を心の中で叱り付けた。しかし城崎の言葉で弾かれた様に頭を上げる。
「それで、実はその時に、俺は君に一目惚れして」
「は?」
「ただ、常識的に考えて、かなり年下の女子高生の所在を調べてどうこうしようとまでは考えなかったから、それきりになってたんだが」
「そっ、そうですよね。係長、どこからどうみても常識的な方ですし」
(ちょ、ちょっと待って。なんか今、サラッと重大な事を言われた気がするんだけど)
反射的に顔を上げ、愛想笑いを浮かべながら美幸は混乱する頭の中を必死に纏めようとしたが、狼狽しまくっている美幸には構わず、城崎は冷静に話を続けた。
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