プロローグ 運命の出会い

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 その視線の先に居た、二十代半ばと思われるスーツ姿の女性は両手の汚れを払う様な動作をしてから、足元に置いてあった書類鞄と封筒を取り上げて男に向かって真っ直ぐ歩いた。美幸も殆ど同時に転がっている男の所に到達すると、彼女が見下ろしながら心底嫌そうな表情で吐き捨てる。 「本当に……、暖かくなってくると、途端に馬鹿が増えるわね」  それから美幸に向き直って、穏やかに声をかけた。 「あなたが盗撮の被害者なの?」  その問い掛けに、美幸は多少どぎまぎしながら答えた。 「あ、い、いえ、違います。同じ高校の先輩にしていた所を見て捕まえようとしたら、冤罪だ、お前らグルだと喚いて、こちらが怯んだ隙に逃げ出しまして」 「へぇ? ……あら、逃げんじゃないわよ!!」 「げふっ……」  美幸達が話し始めた隙を見て、転がっていた男が起き上がって逃げようとしたが、それを察した女性が素早く男の顎を蹴り上げた為、男は顎を押さえて仰向けに転がった。それに不気味な囁き声が降りかかる。 「ふっ、私の後輩に恥をかかせた上、母校の名前に泥を塗ろうとした最低野郎を、誰が逃がすかってのよ? いい加減に観念なさい!!」 「ぐあぁぁぁっ!」  話しかけている間に男の腰の辺りまで移動した女性は、最後は叫ぶよう言いながら片足を上げ、ヒールで股間を力一杯踏みつけた。流石に男が暴れたが、女性がピンポイントに体重をかけて踏みにじっているうちに、数秒で男の意識が途切れたらしく、白目をむいて沈黙する。するとその女性は呆れた様に毒吐いてから、漸く足を下ろした。 「はっ、やっと静かになったわね」 「あの、後輩って……」  忌々しげに呟いた女性に、美幸が控え目に先程の彼女の発言に対する問いを発すると、彼女は美幸に笑顔を向けた。 「私、桜花女学院の卒業生なの。その制服、懐かしいわ。入学早々災難だったわね」  勝手知ったる母校の事で、スカーフの色で美幸の学年を判別した彼女が慰めの言葉をかけると、ここで漸く本来の自分を取り戻した美幸が、勢い良く頭を下げた。 「いえ、助けて頂いて、本当にありがとうございました! もう少しで、最低野郎を取り逃がす所でした!」 「大した事ないわ。人として、当然の事をしたまでよ」  そこでバタバタと走って来て、美幸に声をかけてきた人物がいた。 「あのっ! あなた、大丈夫?」
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