プロローグ 運命の出会い

5/6
146人が本棚に入れています
本棚に追加
/284ページ
 美幸が振り返ると美幸の鞄も一緒に持って、息を切らせて走ってき来た上級生を認め、笑顔で頭を下げた。 「あ、鞄をありがとうございました。すっかり忘れていました」  そしてやって来た上級生が、床に転がっている犯人と美幸を交互に見て呆然としていると、目の前の女性が美幸に尋ねた。 「あなたの知り合いかしら?」 「はい、さっきの男に盗撮された被害者の方です。先輩、こちらの方が犯人を捕まえてくださいました」  上級生にそう説明すると、驚いた表情で女性を眺めた彼女は、深々と綺麗なお辞儀をして、感謝の言葉を述べた。 「そうでしたか、ありがとうございます。助かりました」  それに女性が鷹揚に笑って頷く。 「大した事無いから気にしないで。だけど暫くはこの辺りを歩く時、注意した方が良いわね。学校の方にもあなた達から、詳細を報告しておいた方が良いでしょう」 「はい」 「分かりました」  二人揃って真剣な顔で頷くと、女性は満足した様に再度頷いてから背後を振り返った。 「駅員が来たわね。面倒だけどちゃんと状況説明をして、犯人を引き渡しなさいね? 申し訳ないけど、そろそろ行かないと次の商談先との約束の時間に遅れるから、これで失礼させて貰うわ」 「ご助力ありがとうございました」 「はい、ありがとうございました!」  そうして女性がその場を離れようとした時、彼女が持っている封筒に印刷された社名を目にした美幸が、反射的にそれを口にした。 「あのっ! あなたは柏木産業の方なんですか?」  その声に、一瞬驚いた表情を見せた女性は、次にチラリと手にしていた封筒に目をやり、納得したように微笑んだ。 「私? ええ、柏木産業営業部の柏木真澄よ。それじゃあね」 「はい、お仕事ご苦労様です!」  そうして美幸は彼女に最敬礼し、ビル上層階のオフィスフロア直通のエレベーターに向かって歩いていく彼女の後ろ姿を見送った。そして我知らず呟く。 「素敵……、キリッとしてて気品があって。いかにもできる女って感じ……」  その呟きに、横から思いがけない合いの手が入った。 「本当よね。さすが五代目の《桜花の君》だわ。まさか本人に、直にお目にかかる事ができるなんて。思わず自分の目を疑ってしまって、お礼を言うのが精一杯で、まともにご挨拶も出来なかったわ。明日登校したら、皆に自慢しないと!」
/284ページ

最初のコメントを投稿しよう!