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美幸が振り返ると美幸の鞄も一緒に持って、息を切らせて走ってき来た上級生を認め、笑顔で頭を下げた。
「あ、鞄をありがとうございました。すっかり忘れていました」
そしてやって来た上級生が、床に転がっている犯人と美幸を交互に見て呆然としていると、目の前の女性が美幸に尋ねた。
「あなたの知り合いかしら?」
「はい、さっきの男に盗撮された被害者の方です。先輩、こちらの方が犯人を捕まえてくださいました」
上級生にそう説明すると、驚いた表情で女性を眺めた彼女は、深々と綺麗なお辞儀をして、感謝の言葉を述べた。
「そうでしたか、ありがとうございます。助かりました」
それに女性が鷹揚に笑って頷く。
「大した事無いから気にしないで。だけど暫くはこの辺りを歩く時、注意した方が良いわね。学校の方にもあなた達から、詳細を報告しておいた方が良いでしょう」
「はい」
「分かりました」
二人揃って真剣な顔で頷くと、女性は満足した様に再度頷いてから背後を振り返った。
「駅員が来たわね。面倒だけどちゃんと状況説明をして、犯人を引き渡しなさいね? 申し訳ないけど、そろそろ行かないと次の商談先との約束の時間に遅れるから、これで失礼させて貰うわ」
「ご助力ありがとうございました」
「はい、ありがとうございました!」
そうして女性がその場を離れようとした時、彼女が持っている封筒に印刷された社名を目にした美幸が、反射的にそれを口にした。
「あのっ! あなたは柏木産業の方なんですか?」
その声に、一瞬驚いた表情を見せた女性は、次にチラリと手にしていた封筒に目をやり、納得したように微笑んだ。
「私? ええ、柏木産業営業部の柏木真澄よ。それじゃあね」
「はい、お仕事ご苦労様です!」
そうして美幸は彼女に最敬礼し、ビル上層階のオフィスフロア直通のエレベーターに向かって歩いていく彼女の後ろ姿を見送った。そして我知らず呟く。
「素敵……、キリッとしてて気品があって。いかにもできる女って感じ……」
その呟きに、横から思いがけない合いの手が入った。
「本当よね。さすが五代目の《桜花の君》だわ。まさか本人に、直にお目にかかる事ができるなんて。思わず自分の目を疑ってしまって、お礼を言うのが精一杯で、まともにご挨拶も出来なかったわ。明日登校したら、皆に自慢しないと!」
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