第1章 運命的な再会

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「家は代々名前に『美』の一字を入れて、『よし』と呼ばせる伝統がありまして、四人の姉の名前はそれぞれ美子(よしこ)、美恵(よしえ)、美実(よしみ)、美野(よしの)と言います」 「そうすると、五人姉妹なのか?」  言外に(それは凄いな)と言うニュアンスを含ませつつ谷山が口を挟むと、美幸があっさりと頷く。 「はい。それで姉達の名前は、全て祖父が決めたんです。父は婿養子で、発言権が無かったので」 「…………それは気の毒に」  話題に上った美幸の父親に、谷山を含めたその場の男性全員が思わず憐憫の情を覚えたが、美幸は淡々と話を続けた。 「それで五人目の私の時、流石に気の毒に思った祖母と母が取りなして、『今度の子供の名前はお前が付けて構わん』と祖父に言われた父は、狂喜乱舞したそうです」 「それはそうだろうな」 「それで四人女が続いた事だし、どこぞで占って貰ったら男で間違いないと言われて、『美しい』に『征服する』の『征』と書いて『よしゆき』と読ませる、男の子の名前を考えていたものですから、私が産まれた時は、とても気落ちしたそうで」 「…………」 (いや、何人続いても確率は二分の一だろ) (占って貰ったって……、怪し過ぎるぞ) (何かもう聞かなくても、話の続きが読めたな)  流石に何と声をかけたら良いか分からず谷山は黙り込んだが、それは周囲の人間も同様だった。そんな様々な感想が錯綜する中、美幸が冷静に話を締めくくる。 「周囲が『諦めて女の子らしい名前を付けよう』と諭しても、父が半狂乱になって拒否しまして。散々家族内で揉めた上、『征』の字を『幸せ』に変えて、そのまま『よしゆき』と読ませる妥協案を父が受け入れて、こうなった次第です」 「……色々大変だったらしいな」 「はい、当然私は覚えていませんが、母や姉達が今でも時々父に文句を言っていますので」  そうして谷山に自分の名前の由来を語り終えた美幸は、勢揃いしている社員達に向き直り、改めて「藤宮美幸です、宜しくお願いします」と挨拶して丁寧なお辞儀をしてから、満面の笑みで宣言した。 「それで私の抱負ですが、三十年後には柏木産業の副社長兼専務に就任して、社長に就任した柏木課長を、支えていきたいと思っています!」  それを聞いた者達は、揃って呆気に取られた。 「はあ?」 「へ?」 「正気か?」 「新入社員が何言ってんだよ」 「大言壮語にも程があるぞ」
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