ep.3

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こうなったら相手が佐久間部長だと気づかれなかっただけヨシとしよう。 その後黒瀬主任はそれ以上は聞いてこなかった。 この無言な空間に耐えられず、俺は再びスマホで音楽を流した。 暗闇 無言 適度な揺れ 気持ちのいい音楽 これだけ揃ったらもちろん眠気が襲って来るわけで… 何度も襲いかかってくる睡魔と戦いながら、助手席の窓に凭れ掛かる。 「眠かったら寝台使っていいぞ」 「主任は…眠くないんですか?休憩とかしたほうが…」 「俺休憩とか取っちゃうと逆に眠気来ちゃうんだよなあ。だったら走ってた方が楽」 「そうゆうもんなんですか…」 「あ、パーキング寄るか?トイレとか飲み物とか」 「ちょっとトイレ行きたいかも…です」 「なんだよ、遠慮しないで言えよ」 口は本当にぶっきらぼう。 だけど、何だか暖かい人。 俺の中の黒瀬主任のイメージは、この日、そう書き変えられた。 「よーし!これでラストー!」 「よっしゃー!」 仙台を出発してから5時間後、トラックに積んできた手摺り約20本を東京郊外にある工場に降ろし終えた。 時間は朝の4時。 まだ6月だというのに、ふたりとも頭から水を被ったように汗でびしょ濡れになっている。 「流石にこの量をふたりで降ろすのは無理があったなあ」 この人は本当にそう思っているのだろうか? そう思ってしまう程、黒瀬主任は爽やかな笑顔を浮かべている。 「だから無茶だって言ったじゃないですか…」 俺は耐えきれず、工場の床にへたり込んだ。
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