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 俺はあの涼しい夏の頃、正確には高校二年生の時にラウル国を救った。    俺はさすがに記憶があるわけではないけれど、いつもこう思うんだ。母さんの腹の中でも羊水で体を洗っていたのではと考えたくなるほど、とにかく綺麗好きだった。  そんな俺の朝はいつも忙しい。  朝一でさっさと入浴をして、体を洗うこと5回。髪を洗うこと6回。顔を洗うこと7回。歯を磨くこと6回。  洗顔クリームやシャンプーとリンス。歯磨き粉は一週間もしないうちに空になってゴミ箱入りだった。    階下から母さんの声が聞こえる。 「聡(さとし)――! 洗ってないで! 早くご飯食べなさい!」  階下へ行って、夏の日差しが映えるキッチンのテーブルで、コーヒーを飲んで新聞を読んでいる父さんの肩を少し揉んでから、朝食のベーコンエッグの乗ったトーストと、蜂蜜入りの紅茶を食し、リビングにある鞄をかっさらうと、急いで外へと出た。  こんなに涼しいのだが、空には巨大な入道雲が天空を覆っていた。真っ白く。とても力強く。  でも、汗も掻かない夏は俺は嫌いだった。  車庫に置いてある自転車に早めに乗ろうとすると遅かった。  隣の家に住む。  明石 恵だ。  幼稚園の時からの俗にいう幼馴染だ。 「遅刻だぜ。ほら、さっさとおれを早く乗せてくれよ。学校まで走らせる気か?」  車庫の壁に息を切らして寄り掛かった小柄の明石は、汗が滲んでいた。  茶髪が目立つショートカットに着崩れしたブレザーと汚れたスカートといった。俺の大嫌いな服装だった。  明石は中学校までは真面目で、俗にいう良い子だったが、いじめにあってからは性格が荒くなった。  いわゆる不良だ。 「いいけど、俺に触るなよ」  朝寝坊の常習犯とたまに遅刻と、頻繁な欠席。明石はきっと、顔も洗っていないだろう。  風呂は入っていることを俺は心の中で祈っていた。  通学途中。 「あんたさ。成績も剣道も優秀な真面目君なのに、それにカッコイイ顔で高身長なのに、なんで恋人の一人もいないんだ? やっぱり綺麗好きすぎだからか?」  自転車の後ろに文字通り跨る明石は、俺とちぐはぐだった。  成績は一番下。部活もしていない。顔はいいとして、服装はボロボロ。学校ではその荒れた性格のために毛嫌いされていた。 「解んねえよ。そんなこと」
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