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城下町を一直線に進むと王の居る城だ。城壁もあって、内乱もない戦争もない平和な独立国家のようだ。
「なあ? 戦争がなくてよかったぜ。多分、勉強してねえけど、15世紀くらいの中世だよな」
明石は未だに俺の背に抱き着き、笑いながら話しかけてきた。
「ああ、正解だ。……気が付いたんだけどさ。その黒い霧を俺たちがなんとかすればこの世界から出れるんじゃないかな。漫画やゲームの世界だからそれが、オーソドックスなやり方だよな」
「その前に何か豪華な物食って、金銀財宝持って、それから帰ろうぜ」
弾む息と弾む声の明石は、終始ご機嫌だった。
「なあ、そういえば黒猫が横切ったから俺は避けたんだ」
「へ?」
「元の世界の商店街でさ。そしたら電柱にぶつかったんだと思ったんだ。けれど、その電
柱にはラウル国の危機っていう映画のポスターが張ってあったんだ」
「それじゃあ、ここがラウル国なんじゃね?」
「そうだと思う。聞いてみよう」
俺は自転車を停めると、客引きをしているパン屋のおばさんに聞いてみた。
「そう。よく知っていわね。ここはラウル国。ラウル28世が治める小さな国だよ。元々独立国家で、ラウル国王は穏やかな性格だったから、内乱も戦争もない平和なところさ。けれど、今はあの黒い霧に悩まされているんだよ。王様も大変だろうね。私たちも今は無事だけど、次第に食えなくなってしまうさ」
陽気なおばさんが神妙な顔で話してくれた。
「了解ッス。おれたちに任せろ」
明石は上機嫌だ。
俺もおはさんにお礼を言って、城に向かう道を走り出した。
「やっぱり、そうだろ。ここはポスターにあった映画の中だ」
「じゃあ、思いっきり満喫してから帰ろうぜ」
往来する通行人を避けて、雑多な店などを楽しく見物しながら、俺と明石は城を目指した。
汗の浮き出る暑い夏の時期だった。
空には太陽が真っ赤に燃え、まだらな白い雲が所々に流れていた。
城へ着くと、門番が二人いた。
その奥には兵士たちが鋭い目で俺たちを見つめていた。
「通してください。王様に会いたいんです。あ、俺、日本からきました。俗にいう異世界です。大臣の許可が下りれば会えるんですよね」
兵士や門番たちは一斉に笑い出すと、変わった服装をしてるから本物だろうと通してくれた。
湖の中央にそれはあった。
四方を湖で囲まれた城だった。
橋は一本だけ。
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