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「じゃが、王も言ったとおりに一人だけ……。それが、わしの魔力の限界だ」
「一人だけ? どういう意味ですか」
「言葉の通りじゃ。じゃが、希望を捨てるよりか、遥かにマシじゃろうて」
魔女はそこまで言うと、咳き込む。
「お前はあの黒い霧の退治の仕方。知っているのだろうて」
「ええ、ゲームというので知っています」
「ゲーム?」
「あ、こっちの世界にあるものです。それだと、砂に弱いのだそうです」
「ほうほう……王よ。砂だ。砂を国中から集めよ。近づくと危険じゃが、そこは兵士たちが何とかするじゃろうて」
「あい、解った」
王が頷くと、魔女は兵士の一人から自転車を持ってこさせた。
巨大な鏡のある場所に置いた。
「これで、元の世界へ行け。あの女はここへ残るのだろう」
魔女がそこまで言うと俺はドキッとした。
「え、何故ですか?」
気が付くと後ろに小汚く皺くちゃになった服装の明石がいた。
「なあ、一人だけだろ。それなら、聡が元の世界へ戻れよ」
明石は涼しく笑った。
「お前はどうするんだ?」
「俺ならここで遊んでいるよ」
「学校はどうするんだ? 出席日数が少ないだろ……。俺が残るよ」
明石は首を振り、
「高校なんて、お前がいたから俺は通っていたんだよ。今でも陰でいじめられているんだ。おれ……聡に近づくなって」
明石は急に涙を流した。
「学校なんて、辛いだけだ。いくら、喧嘩が強くなっても、あいつら汚いし大勢いやがる」
「なんで、そのことを俺に言わなかった!!」
「お前を巻き込みたくなかったからだよ! いいか、おれが残る!必ず迎えに来いよ!」
「意味解んねえよ!! 俺、お前のことが好きだったんだぞ!! ずっと前から!!」
明石は涙を拭いて、
「おれもだ。だから、絶対におれを連れ戻せよ。それと……忘れるなよ」
明石はそう言うと、自分の部屋へと泣きながら走り出した。
魔女は言った。
「あの娘はお前のためにしか、今まで生きていなかったのだ。それを無駄にしてはいけないじゃろうて」
王も項垂れ気味に、
「さあ、それに乗って元の世界へ戻ることだ。あの娘は私が面倒を見よう」
俺は泣き出した。
何故、今まで気が付かなかったのか?
俺のために酷い目に合っていたのを、何故気が付いてやれなかったのだろう?
魔女が優しく俺の頭を撫でてきた。
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