ポスター

8/8
前へ
/8ページ
次へ
「大丈夫じゃ。あの子はきっと、未来で幸せになる。わしが保証する。それには元の世界で出世していくのだ」  俺は涙を拭いて立ち上がった。  明石のために自転車をころがして、大鏡に入った。  絶対に許さねえ。  その後、俺は不良の女数名を殴って、学校を辞めた。  今は、必死に勉強して有名大学へと入学していた。  明石は世間では今も行方不明扱いだった。  熊笹商店街のポスターはあれから、張られていない。映画は上映もされなかったようだ。 「なあ、映画研究会のものだけど、君入らない?」  茶髪の軽そうな先輩にキャンパスで勧誘を受けた。  俺はすぐに頷くと、先輩について行った。 「なあ。知ってるか?数年前に上映されなかったラウル国の危機って映画。どうやら、いつの間にか映画の中身が変わっていたんだってさ。ストーリーも登場人物も。秘蔵の秘蔵だ」  俺はすぐに顔を上げ、 「その映画。観たいんです。どうしても。映画研究会にありますか?」 「ああ、秘蔵大好きさ。入手してある」   俺は喜び勇んで、先輩に付いて行くと、真っ暗な数名のオタクたちの部屋へと入った。  小汚い部屋だったが、匂いだけはいいようでオレンジの香りがしていた。 「なあ、秋ポン。新人がラウル国の危機って映画観たいって」  一番太っているメガネのオタクが立ち上がり、ゴソゴソと壁際のダンボールを黙々と探す。  そして、一本のDVDを俺に渡した。 「観ていいよ。今、丁度、終わったところだから」  俺はそのDVDを観た。  映像は記憶とまったく同じだった。  あの頃の俺と明石が写っていた。  俺が涙を流していると、先輩が缶コーヒーを渡してくれた。 「いいね。見所あるよこの新人」 「ああ、掘り出し物だよね」 「いい人みっけ」 「なんか、この映画の登場人物に似てないか?」  そんな言葉は耳に入らず。  俺は二時間ぶっ通しで泣いて観ていると。  明石が海のように波打つ麦畑で、清潔なブレザーとスカートを着ていた。こちらに振り向いて、ニッコリと笑うと、 「絶対に連れ戻してね。聡……好きよ……」
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加