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「大丈夫じゃ。あの子はきっと、未来で幸せになる。わしが保証する。それには元の世界で出世していくのだ」
俺は涙を拭いて立ち上がった。
明石のために自転車をころがして、大鏡に入った。
絶対に許さねえ。
その後、俺は不良の女数名を殴って、学校を辞めた。
今は、必死に勉強して有名大学へと入学していた。
明石は世間では今も行方不明扱いだった。
熊笹商店街のポスターはあれから、張られていない。映画は上映もされなかったようだ。
「なあ、映画研究会のものだけど、君入らない?」
茶髪の軽そうな先輩にキャンパスで勧誘を受けた。
俺はすぐに頷くと、先輩について行った。
「なあ。知ってるか?数年前に上映されなかったラウル国の危機って映画。どうやら、いつの間にか映画の中身が変わっていたんだってさ。ストーリーも登場人物も。秘蔵の秘蔵だ」
俺はすぐに顔を上げ、
「その映画。観たいんです。どうしても。映画研究会にありますか?」
「ああ、秘蔵大好きさ。入手してある」
俺は喜び勇んで、先輩に付いて行くと、真っ暗な数名のオタクたちの部屋へと入った。
小汚い部屋だったが、匂いだけはいいようでオレンジの香りがしていた。
「なあ、秋ポン。新人がラウル国の危機って映画観たいって」
一番太っているメガネのオタクが立ち上がり、ゴソゴソと壁際のダンボールを黙々と探す。
そして、一本のDVDを俺に渡した。
「観ていいよ。今、丁度、終わったところだから」
俺はそのDVDを観た。
映像は記憶とまったく同じだった。
あの頃の俺と明石が写っていた。
俺が涙を流していると、先輩が缶コーヒーを渡してくれた。
「いいね。見所あるよこの新人」
「ああ、掘り出し物だよね」
「いい人みっけ」
「なんか、この映画の登場人物に似てないか?」
そんな言葉は耳に入らず。
俺は二時間ぶっ通しで泣いて観ていると。
明石が海のように波打つ麦畑で、清潔なブレザーとスカートを着ていた。こちらに振り向いて、ニッコリと笑うと、
「絶対に連れ戻してね。聡……好きよ……」
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